【対談(後編):冷泉彰彦×渡辺由佳里】トランプ現象を煽ったメディアの罪とアメリカの未来
【渡辺】「振り子の揺り戻し」と回復力について、同感だ。大統領選後に二大政党はどちらも自分たちのアイデンティティについて深く内省することになる。特に共和党は現在「内戦状態」にあると言っていい。強い外交と「小さな政府」を掲げる、かつての共和党に戻りたい人たちと、今回トランプを支援した人たちが、どのように協調して共和党を立て直していくのか、その点は注目される。
一方の民主党は、今回サンダースの登場で相当に左寄りになってしまった。しかしサンダースはまた無所属に戻るので、熱烈な支持者が民主党に残るとは思えない。今後の民主党は、若年層への支持を広げること、そして党上層部の透明化を図っていくことが必要だ。
またネットやソーシャルメディアを使った新しい戦略は、こらからの選挙戦の柱になるだろう。それでも、従来からの「地上戦(選挙ボランティアによる電話や戸別訪問による働きかけ)」はなくならない。今回も激戦州では、有権者登録や事前投票で「地上戦」は重要な役割を果たしている。これはネットではできないことだ。
そして、これからの政治家がやらなければならないのは、わかりにくい政策をわかりやすく解説する「有権者教育」なのではないか。
<参考記事>トランプにここまで粘られるアメリカはバカの連合国
【冷泉】まさにそれを、ヒラリー自身が、昔ルーズベルトが国民に語りかけた「炉辺談話」のような形式でやって欲しい。仮にヒラリーが大統領になったら、優秀な若い人材をどんどん活用して、複雑な国際社会の問題を解決できる人材を「ヒラリー学校」で育てていくべきだ。
アメリカは今後ますます知的産業が中心の社会となって、世界を牽引していくことになる。今後そうした社会変化への理解が広がると思うが、それを妨げるものがあるとしたら、右と左の感情論だ。ヒラリーには、就任後に実績を示して、そのような感情論を抑えていくことを期待したい。ただ、就任当初の支持率はオバマのようには行かないだろう。2年後の中間選挙での敗北は絶対に許されない。従って、最初の1年で大きな実績、しかも世論に強い印象を与える政治がどうしても必要になる。それがヒラリーの最初の関門になるだろう。
【渡辺】もしヒラリーが当選したら、予想外に良い大統領になると期待している。彼女は、有能なマネージャーであり、実務主義者だからだ。
ヒラリーは選挙に出ると、ライバルやメディアに叩かれて「好感度」や支持率が落ちる。しかし、実際に仕事をしている間は支持率が高い。ファーストレディーとして政策に関与していたときですら支持率は62%あり、上院議員の仕事を終えたときには58%、国務長官時代には、オバマやバイデン副大統領よりも高い66%あった。
マネージャーとしての腕を発揮して、機能不全に陥っている議会や国政を前進させてもらいたい。
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>