最新記事

フィリピン

フィリピン、ドゥテルテ大統領が仕掛ける麻薬戦争「殺害リスト」に高まる懸念

2016年10月16日(日)18時36分

 10月7日、マニラの輪タク運転手、ネプタリ・セレスティーノさんの死をめぐっては、警察と家族の主張は異なるが、どちらが正しいにせよ、彼の命はそう長くなかったようだ。麻薬容疑者の「要注意リスト」に名前が挙がっていたからだ。写真は棺に入ったセレスティーノさんの遺体を見つめる彼の妻、ザンディさん。マニラで9月15日撮影(2016年 ロイター/Romeo Ranoco)

マニラの輪タク運転手、ネプタリ・セレスティーノさんの死をめぐっては、2通りの主張がある。フィリピン警察は、9月12日におとり捜査を進めていた私服警察官に対してセレスティーノさんが発砲してきたため、警察官らが反撃したと説明している。

一方、セレステイーノさんの家族は、警察官が彼らの粗末な家に押し入り、丸腰のセレスティーノさんを追い詰めて、10代の息子たちの面前で射殺したと主張する。

どちらが正しいにせよ、セレスティーノさんの命はそう長くなかったようだ。というのも、彼が暮らす首都マニラの東側にある騒々しく車通りの多いパラティウ地区で、警察が地元の有力者らの協力を得て作成した麻薬容疑者の「要注意リスト」に彼の名前が挙がっていたからだ。

ドゥテルテ大統領が6月30日に就任して以来、3600人以上の死者を出すに至った「麻薬戦争」において下働き役を務めているのが、警察による容疑者リスト作成を支援するそうした地元の人々である。

ロナルド・デラロサ国家警察長官によれば、警察によって射殺された1377人の大半はこのリストに含まれているという。残りの2275人の犠牲者は、人権活動家によればほとんどが自警団によって殺されているというが、このリストに掲載されているかどうかは不明だ。

この麻薬撲滅作戦の旗を振っているのはドゥテルテ大統領自身である。先月30日、彼はまるで自分をヒトラーになぞらえるかのように、「(フィリピン国内の麻薬中毒者300万人を)抹殺できたら幸せだろう」と述べた。だがこの作戦の効率は、国内のバランガイ、つまり地区や村における最底辺の地元職員らにかかっている。

「彼らはこの戦いの最前線にいる」とデラロサ長官はロイターに語った。「彼らは、自分のバランガイにいる麻薬常用者や密売人を特定できる。全員の顔を知っている」

<バイクに乗った暗殺者>

地元警察や、住民、バランガイ職員へのインタビューを通じて、この麻薬撲滅という「聖戦」の仕組みが明らかになった。高い支持率を誇るドゥテルテ大統領は、世界的な非難に直面しつつも、この作戦を来年6月まで続けると公約している。

警察によれば、容疑者リストの作成にあたっては、「キャプテン」と呼ばれるバランガイの首長が役に立っているという。

マリカー・アシロ・ビベロ氏は、マニラのバランガイの1つ、人口約14万5000人のピナグブハタンのキャプテンを務めており、ドゥテルテ大統領が率いる麻薬撲滅作戦の熱心な支持者だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中