病院が患者を殺す 米国で広がるMRSAの脅威
クリスタルさんと、もう1人の姉妹であるステファニー・ホールさんによれば、病院のスタッフはナタリーさんに「生後1週間の息子を抱いて授乳しても大丈夫だ」と言ったという。だが1カ月後、その息子も新生児集中治療室に入り、自身のMRSA感染と闘っていた。
息子は一命を取りとめた。ナタリーさんについては、その後数カ月、次々に合併症に襲われたというカルテが残っている。複数の感染症により複数の手術を受けることになり、ナタリーさんは動けなくなった。
2013年9月のある金曜日の夜、ステファニーさんはナタリーさんのベッドのそばに付き添い、ナタリーさんがいずれ家に帰れるものと楽観しつつ、手の爪にメタリックブルーのマニキュアを、足の爪にはメタリックパープルのペディキュアを塗ってあげたという。
だがその3日後、ナタリーさんは亡くなった。
クリスタルさんとステファニーさんによれば、ナタリーさんの担当医は、死亡証明書の死因欄に「心不全」と書きたがったという。
この件に関し、デルソル医療センターはコメントを拒否した。
シルバ家は3000ドル(約30万6000円)を払って検視解剖を求めた。これによって、MRSA感染が死因であることが確認された。死亡証明書上では直接の死因は心肺停止だが、MRSA感染の合併症がその原因とされている。
「ナタリーは23歳で健康だった。私たちにはMRSAが非常に大きな原因だったことが分かった」とクリスタルさん。「死亡証明書にMRSA感染を入れてもらうのには苦労した」
ステファニーさんは昨年9月、ナタリーさんのMRSA感染とその後の合併症による死亡は、病院側に責任があるとして、デルソル医療センターを医療過誤と不法死亡でエルパソ郡地方裁判所に告訴した。2人の子どもが母親を失ったことへの賠償と、療養中の給料、医療費、葬儀費用の弁済を要求するものだ。
テキサス州保健当局の広報担当クリスティン・マン氏は、薬剤耐性菌による死亡データを集めるには、正式な法律か、州内のルール変更が必要になると述べた。「公衆衛生上、最も必要性が高い部分で対策を講じるため、リソースと関心に優先順位をつけている」という。
ロイターの分析によれば、ナタリー・シルバさんの死は、テキサス州で2003─2014年に確認された抗生物質耐性菌感染に関連する死亡例約1万件の1つである。ナタリーさんの姉妹は、死亡証明書に本当の死因を記載させることに成功したが、それでも統計上は薬剤耐性菌感染による死亡にはカウントされないのである。
(Ryan McNeill記者、Deborah J. Nelson記者、Yasmeen Abutaleb記者 翻訳:エァクレーレン)