病院が患者を殺す 米国で広がるMRSAの脅威
9月7日、ロイターの調査では、米国で薬剤耐性菌への感染に関連した死亡例がカウントされていないことが分かった。写真は、出産時の傷から感染症にかかり死亡したナタリー・シルバさんの姉妹ステファニー・ホールさんとゲームをする、ナタリーさんの息子ケイン君と娘のデスティニちゃん。テキサス州で7月撮影(2016年 ロイター/Dan Dalstra)
ジョサイア・クーパーポープちゃんは、予定日より15週早く生まれた。出生から最初の10日間、新生児集中治療室での経過は良好だった。
ところが突然、ジョサイアちゃんの小さな体が腫れ始めた。一夜のうちに体があまりにも膨れ上がり、皮膚に裂傷が生じるほどだった。
母親のシャラ・バウザーさんによれば、チッペンハム病院(バージニア州リッチモンド)の看護師からは、ジョサイアちゃんが感染症にかかっており、最悪の事態を覚悟してほしいと言われたという。2010年9月2日、バウザーさんはわが子を抱くことを許されたが、それが最初で最後となった。ジョサイアちゃんは息を引き取った。17日間の命だった。
病院関係者の誰一人としてバウザーさんに話さなかったことがある。その新生児集中治療室で同じ感染症、つまりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSAという略称がよく知られている)に感染したのは、これが4例目だったということだ。記録によれば、感染が沈静化するまでに、その後さらに8人、すなわちその集中治療室に入ったほぼすべての新生児が発症したとされている。
今年に入り、この感染症の集団発生についてロイターから連絡を受け、ジョサイアちゃんの死亡証明書のコピーをもらうために州の出生死亡記録部を訪れたバウザーさんは、息子の死から受けたショックを思い出した。死亡原因は「早産に伴う(またはそれを原因とする)敗血症」と書かれていた。敗血症は感染による合併症だが、MRSAとは一言も書かれていなかった。
「悲しくてたまらない」と、バウザーさんはすすり泣きながら語った。「そのせいであの子がどうなってしまったか、私はこの目で見た。それなのに、死亡証明書ではただご託を並べているだけ」
死亡証明書によれば、エンマ・グレイス・ブローちゃん(3)は、インフルエンザの合併症のために亡くなっている。ジョシュア・ネイハムさん(27)はスカイダイビングの事故に伴う合併症で亡くなった。ダン・グリューリッチさん(64)は、腎臓・肝臓の同時移植を受けた後、心不整脈で亡くなった。
いずれの場合も(ロイターはこれ以外の例も発見している)、カルテによれば、患者が病院での治療を受けているあいだに薬剤耐性バクテリアに感染したことを原因とする死亡である。だが、死亡証明書には感染については何の言及も見られない。
連邦政府が、薬剤耐性菌への感染が公衆衛生に対する重大な脅威であると宣言したのは15年前である。だがロイターの調査では、薬剤耐性菌への感染に関連した死亡例がカウントされていないことが分かった。そのせいで、人命という点でも経済的損失という点でも大きな犠牲を生んでいる原因に、この国はうまく対処できていない。