最新記事

法からのぞく日本社会

都知事に都議会の解散権はない......が、本当に解散は不可能か?

2016年7月17日(日)15時30分
長嶺超輝(ライター)

Issei Kato-REUTERS

<都知事選に立候補した小池百合子氏が「冒頭で都議会を解散する」と訴えて話題になった。都知事は総理大臣以上に強い権限を持つが、解散については、法律上その権限がない。では、総理大臣の「伝家の宝刀」である衆議院の解散権はどうかというと、実はこちらも法的根拠があるわけではないのだ>

 去る14日、東京都知事選が告示された。いち早く立候補を表明した小池百合子氏は、知事に当選したならば「冒頭で都議会を解散する」ことを事実上の公約に掲げて、話題になった。

 都議会の解散とは、議会に所属する議員を全員いっせいに辞めさせ、選挙を実施することで、議員を総入れ替えすることを意味する。

 既に新聞やテレビ、ネット上でさんざん報じられているとおり、都知事に都議会を解散する権限はない。


◆地方自治法 第178条
1 普通地方公共団体(東京都を含む。※筆者注)の議会において、当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をしたときは、直ちに議長からその旨を当該普通地方公共団体の長に通知しなければならない。この場合においては、普通地方公共団体の長は、その通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができる。
〔中略〕
3  前2項の規定による不信任の議決については、議員数の3分の2以上の者が出席し、第1項の場合においてはその4分の3以上の者の〔中略〕同意がなければならない。

「お前は知事にふさわしくない」との不信任決議が、議会から示されたときに初めて、知事はそれに対抗するかたちで議会を解散することができる。要は「リアクション」としての解散しかできないのである。

 仮に当選した暁には、小池氏は、どのようにして「冒頭解散」に打って出るつもりなのだろうか。まだ都知事として何もしていない段階で、自らへの不信任を決議するよう、さっそく都議会に頼みこむのだろうか。それとも、何らかのメッセージを送って、自主的に解散するよう、都議会を説得するのだろうか。

 もしかすると、小池氏は自民党の正式な推薦を得ずに立候補したので、都議会でも多数を占める自民党議員から煙たがられているに違いないと考え、先手を打って「冒頭解散」を明言することで、自らへの不信任決議を出さないよう釘を刺しておく作戦なのかもしれない。

【参考記事】都知事選に都政の選択肢はないのか?

 いずれにせよ、都知事の「解散権」によって行われる解散とはいえない。

総理大臣、アメリカ大統領以上(?)の権限を持つ知事

 もっとも、国政に携わってきた期間が長い小池氏である。内閣総理大臣には衆議院を解散する権限があるにもかかわらず、都知事に都議会の解散権がないのはなぜだろうかと、摩訶不思議に、そして歯がゆく感じてらっしゃるのではないか。

 都道府県の知事は、ある面で、内閣総理大臣を上回る強力な権限を持っている。なぜなら、地元の住民による直接選挙で選ばれるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中