ダラス警官銃撃事件が大統領選の流れを変える
92年、黒人青年ロドニー・キングを暴行した白人警官に無罪評決が出たことへの不満が爆発する形で起きたロサンゼルス暴動では、逆の結果になった。当時民主党の大統領候補だったビル・クリントンは、暴力を非難すると同時に、警官に対する黒人の不満に共感を表明。秩序の回復という重要テーマで現職のジョージ・H・W・ブッシュよりも頼りになる印象を与え、有権者の心をつかんだ。
かつてのニクソンのように、現在の混乱がトランプの追い風になる可能性はある。クリントン陣営は、米軍最高司令官を兼ねる大統領には「静かなリーダーシップ」が必要であり、トランプは不適格だという主張の説得力が増すとみているかもしれない。だがクリントンも、黒人など少数派の支持基盤を維持したければ、警官による暴力の問題に正面から取り組むことを求められる。
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1963年11月、同じダラスで起きたジョン・F・ケネディの暗殺は、事件や暴動の政治的影響がいかに予測困難かを示すいい例だ。
現職大統領の射殺事件は全米の同情を集め、64年の大統領選は同じ民主党のリンドン・ジョンソンが圧勝。30年代のニューディール政策以来、最も目覚ましい社会改革「偉大な社会」政策のきっかけとなった。だが同時にケネディ暗殺は、ベトナム戦争の激化とアメリカの保守化の前触れでもあった。
今回のダラス事件も、政治的影響がはっきりするのはしばらく先になりそうだ。
[2016年7月19日号掲載]