米軍は5年前、女性兵だけの特殊部隊をアフガンに投入していた
Monty Burton/U.S. Marine Corps/Handout-REUTERS
<2011年、法律をかいくぐってまで、アフガニスタンの前線に派遣されていた女性だけの米軍特殊部隊があった。『アシュリーの戦争』が女性兵の視点から描く、知られざる物語。彼女たちの苦労、戦場での日常、そして特殊作戦の成功と失敗とは?> (写真はアフガニスタンの子供と交流する女性兵、米海兵隊の配布資料より)
2016年1月。アメリカは遂に米軍内のすべての軍事的職業を女性に解放した。ネイビー・シールズやグリーンベレーで有名な特殊作戦軍も例外ではない。女性兵は、男性兵と同じ訓練を受けることができ、選考試験を突破できれば、地上戦の直接戦闘にも加われることになったのだ。しかし、この動きは、やっとルールが現実に追いついたと言ったほうがいい。
さかのぼって2011年8月。最精鋭の陸軍女性兵だけを集めた特殊部隊が初めてアフガニスタンの土を踏んだ。彼女たちはCST(=文化支援部隊)という特殊作戦プログラムのメンバーだ。特命を帯びた彼女らは、ゲリラをターゲットにした夜間急襲専門のレンジャー部隊に付帯し、レンジャーが強襲に踏み込む寸前までアフガン女性や子供たちから情報を聞き出す。タイムリーに情報を聞き出せれば、どちら側も犠牲者を最小限にできる。もちろん、敵は目の前。いざとなれば、彼女たちとて武器を引き抜き応戦する。
実は、彼女たちが配置された2011年の時点では、アメリカの法律は女性が地上の直接戦闘に従事することを禁じていた。では、なぜ、そんな法律をかいくぐってまで、彼女たちはアフガニスタンへ派遣されなければならなかったのか。
その理由を、6月末刊行の新刊、ゲイル・スマク・レモン著のノンフィクション『アシュリーの戦争――米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる「女性部隊」の記録』(筆者訳、KADOKAWA)が、様々な角度から女性兵の視点で紐解いていく。1つには性差のない社会への流れがある。もう1つには、イスラム世界との戦いがあった。2001年の9.11同時多発テロ事件を引き金に始まったアフガニスタン戦争は、米国史上最も長い戦争となり、未だ終結していない。
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米軍はアフガニスタン辺境地域で苦戦を強いられた。その理由の1つは、伝統的に男女が隔離される辺境のイスラム社会にあった。アフガニスタンの辺境地域では、男性兵が接触できない女性を隠れみのとして、男性ゲリラが逃亡するという事態が続発していた。その失敗から、米軍は特殊作戦における女性兵士の起用に踏み切ったのだった。
女性兵士を派遣することで、イスラム社会の半数である、現地の女性たちから情報を入手することができる。つまり、イスラム圏の戦闘においては、最前線に立つ女性が不可欠だったのだ。米軍内で、この案に根強い反発があったことや、女性兵に平等な機会が与えられていなかったことを考えれば、皮肉である。
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