最新記事

グルメ

美味しいロンドンはロシアが作る

2016年6月28日(火)15時50分
オーエン・マシューズ

汽車の食堂車を思わせる内装も魅力のボブ・ボブ・リカード Bob Bob Ricard

<経済危機を背景にロシア人シェフや経営者が次々とイギリスに活路を求め、斬新なアイデアで成功を収めている>

 ロシア人がロンドンを乗っ取っている──。

 と言っても高級不動産やサッカーチームではなく、レストランの話だ。ロンドンの活気あふれる外食産業の次世代を担うのは、意外なことにロシア発のレストラン。斬新なメニューと発想で人気を博している。

 もっともロシア料理の店は少なく、3月にソーホー地区にできたジーマは例外的な存在だ。モスクワ出身のシェフ、アレクセイ・ジミンはジーマでロシアの屋台料理を出しているが、実を言うとロシアに屋台はない。寒いので、ほぼ1年を通じて食事は屋内と決まっている。だから、要は「しゃれたエスニック料理の店で、魂はロシア」ということらしい。

 ジミンの手に掛かると、クラブサンドイッチの具はジョージア(グルジア)名物のタバカ(スパイシーなローストチキン)になる。ロシアぎょうざのペリメニには鹿肉が使われ、ニシンには洋梨が添えられる。

 ジーマではキャビアも、財布と相談しながら好きなだけ楽しめる。低温殺菌していないフレッシュな高級オシェトラ・キャビアが、1グラム当たり1ポンド(約150円)と比較的リーズナブル。ブリヌイ(そば粉のパンケーキ)のサワークリームとポテト添えも庶民の味だ。

 ウオッカと軽食を出す昔ながらの立ち飲み屋をモデルにしただけあって、週末の夜更けはにぎやかに盛り上がる。各種のスパイスを漬け込んだウオッカの品ぞろえのせいもあるだろう。ペッパーやクランベリーからカレー風味のウオッカまで、この店には何でもある。

【参考記事】NY著名フレンチシェフが休業、日本に和食を学びに来る!

 陽気で手頃なジーマと違い、メイフェア地区のノビコフには富裕層が集う。内装はシックでメニューは国際色豊か。店の左半分ではアジア料理が、右半分ではイタリアンが楽しめ、奥にはため息が出るほど趣味のいいバーラウンジが広がっている。

 4年前にこの大型店を仕掛けたのは、モスクワのレストラン王アルカジー・ノビコフ。今では年に3660万ドルも稼ぐ繁盛店だ。

 豪華な内装と極上のアジア料理がリッチな客を引き付ける。アカザエビのタルタルは潮の香りがするし、ウツボのフライは旨味たっぷり。「プライベートジェット用テイクアウトメニュー」には、オーストラリア産和牛(72ポンド)やシチリア産エビ料理(67ポンド)が並ぶ。

 ノビコフはロシアでそれぞれ趣向の違うレストランを50軒とチェーン店を50軒経営し、イギリスでも3軒を手掛ける。ロンドン進出を決めたのは競争の激しさが世界でもトップレベルだから。「自分の腕を証明したい」と、彼は言う。

ワイン店もイメージ一新

 祖国の経済危機も進出を後押しした。通貨ルーブルは暴落し、消費も低迷。閑古鳥の鳴くモスクワの高級飲食店は 国外に活路を求めている。

 ノビコフはロンドンとニューヨークとドバイに店を出した。05年に総工費5500万ドルを投じて豪華レストラン、トゥーランドットをモスクワに開店したアンドレイ・ドロスも、ロンドンのメイフェア地区にロシア貴族の館を移築し、高級レストランを近くオープンする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米11月ISM非製造業総合指数52.1に低下、価格

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中