最新記事

インタビュー

NY著名フレンチシェフが休業、日本に和食を学びに来る!

2016年6月17日(金)16時12分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

Photo: Satoko Kogure for Newsweek Japan

<ニューヨークを代表するシェフであるデービッド・ブーレイ氏が、経営するフランス料理店を休業し、日本などに"武者修行"に行くという。日本には合計4カ月間滞在し、訪れるのは金沢や沖縄など。なぜ彼はそれほどまで和食に入れ込んでいるのか。さらに独占取材でわかった、ニューヨーカーから悲鳴(?)が聞こえてきそうなもう1つのニュースとは――。> (写真がブーレイ氏。6月15日、ブラッシュストロークにて撮影)

 ニューヨーク通の日本人なら、1度はこの店の名前を耳にしたことがあるだろう――トライベッカ地区にある人気フランス料理店「ブーレイ」。87年のオープン以来、移転を経つつ何度もミシュランの星を獲得し、今年3月にも辛口レビューで知られるニューヨーク・タイムズ紙のピート・ウェルズ記者が3つ星を掲げて絶賛した(最高評価は4つ星)ほど、ブレないクオリティを保っているレストランだ。

 同店のオーナーを務めるのが、ニューヨークを代表するトップシェフであるデービッド・ブーレイ氏(63)だ。早くからフレンチに和食の要素を取り入れてきたうえ、5年前には辻調グループ(大阪市)とタッグを組んで日本食レストラン「ブラッシュストローク」をオープン。こちらも和食ブームに沸くニューヨークで高い評価を受けてきた。

【参考記事】どんなにサービスが悪くても、チップは15%払うべし
【参考記事】アメリカの熾烈な競争が垣間見える、グルメ版『プラダを着た悪魔』

 ところがそのブーレイ氏、今月7日に、今年10月末をもってブーレイを「休業する」と発表した。彼は今月3日、日本政府から世界に和食の魅力をPRする「日本食普及の親善大使」に正式に任命されたばかり。休業期間中に日本を始めとする複数の国で食と健康について「学んでくる」というが、彼が大人気レストランを閉じてまでやりたいこととは何なのか。ディナーの準備が始まる前の午後のひととき、ブーレイの向かい側にあるブラッシュストロークの店内でブーレイ氏に話を聞いた。

ny160617-a2.jpg

「ブーレイ」のドアを開けると、本物の林檎たちが迎えてくれる 。林檎の香りに包まれながらの入店(筆者撮影)

ny160617-b2.jpg

店内のダイニングルームに入る前のサロン。まるで絵画の世界に迷い込んだかのよう(筆者撮影)

――ブーレイを閉じた後、日本に行くというのは本当ですか。

 閉店ではなく休業するだけだが、日本に行くというのは本当だ。休業期間中には、4回に分けて約1カ月間ずつ日本に滞在するつもりだ。日本に行って、まずは石川県金沢市で農業や漁業、懐石料理や和食のコンセプト全般について学んでくる。食に関して日本で最もハイクオリティな県は、石川だと聞いているからだ。あらゆる日本人が、農業と漁業は京都以上だと教えてくれた。食については、石川県が一番だと。

 日本の料理人からしか学べないことというのはたくさんあるが、その1つが「発酵」だ。食品発酵について学ぶため、金沢の次に沖縄に行く。沖縄の人はなぜ長生きなのか。ストレスがないせいかもしれないが、それだけではないだろう。食事も重要に違いない。

 例えば、女性は老いると骨粗しょう症など骨に異常をきたしがちだが、発酵食品である納豆を食べている人の骨は強い。大豆はカルシウムが豊富なだけでなく、発酵させることでビタミンKが生まれる。私も納豆が大好きで、妻は毎日食べている。沖縄では、麹(こうじ)など様々な種類のバクテリア(細菌)について学ぶつもりだ。沖縄料理の手法で、豆腐を麹漬けにして数日置くとチーズのような食感になる。日本の食材とテクニックを使って、自分のフランス料理を強化したい。

 また、学ぶだけではなく著名な料理人たちと一緒にキッチンにも立つ予定だ。どの店かは決まっていないが、私が彼らに自分のアイデアを教え、彼らも私に教えてくれる。私の店で出している黒トリュフを使ったメニューの1つは、今や京都の料理人が自分の店でも出している。同じレシピだ!

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中