ミャンマー新政権も「人権」は期待薄
そんな危機がかすむような出来事もあった。アウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)の総選挙での勝利と、彼女の側近だったティン・チョーの大統領就任だ。一連の動きにより、ミャンマーは民主化に向けてさらに前進しているという見方が出てきた。
期待が高まる一方で、改革の先行きには限界もある。例えば、新政権には軍の権力乱用を阻止する権限がほとんどない。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの報告によれば、新政権は不当に拘束された政治犯の一部に恩赦を与えることはできるかもしれないが、政治犯が釈放されては再逮捕されるという状況に歯止めをかけられない可能性がある。
政治犯の再逮捕を阻止する上で、NLDが直面する大きな関門が憲法の規定だ。前軍事政権が作成し、08年の国民投票(不正操作があった)で承認された憲法は、内務省が管轄している警察などの主要機関について、軍の支配権をはっきりと認めている。
そのためNLD政権は、どの抗議行動を当局が「承認」するかという点に発言権を持っていない。警察が「望ましくない」と見なす抗議行動に携わった者は誰であれ、政府が反対したとしても国家当局に逮捕される可能性がある。
さらに、治安当局が「安全上の脅威」と見なせば、一部の政治犯の釈放が阻止される可能性もある。
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アムネスティ・インターナショナルのローラ・ヘイグは、ミャンマーの内務省とその支配下にある治安当局について「軍が最終的な支配権を握っているという状況は、極めて懸念される」と語った。「政治的な逮捕と収監を終わらせるために、新政権がどこまでやれるのかも不透明だ」
軍に切り札が多過ぎる
NLDは活動家の弾圧に利用されている一部の法律について、変更や修正を試みることはできるだろう。しかし、そうすれば政治的対立を引き起こし、軍の術中にはまる危険がある。国家的な危機が起きた場合、軍は国家安全保障会議を通じて一時的に民主的統治を中断できるという規定があるからだ。
軍がこれほど多くの切り札を持ち、議会が対抗できない構造が続く限り、政治犯の逮捕は今後も続く可能性が高い。法改正を試みたり、軍による権力乱用を阻止しようとするNLDの取り組みは、外部の強い支援がなければ成功しないだろう。
こうした状況を受けて人権団体は、諸外国がミャンマーの人権状況の悪化を認識し、圧力を強めるべきだと主張している。「国際社会はミャンマーの人権状況を『サクセスストーリー』と持ち上げるのをやめるべきだ。実際にはここ数年で、弾圧は著しく増えている」と、ヘイグは指摘する。