ミャンマー新政権も「人権」は期待薄
一定の民主化は進んだが、半世紀ぶりに誕生した文民政権に軍部を抑える権限は極めて限られている
視界不良 アウン・サン・スー・チー(左)の側近だったティン・チョー新大統領(右)に期待が集まるが Ye AungThu-POOL-REUTERS
ミャンマー(ビルマ)が民主化に動き始めたばかりの12年11月、
ヤンゴン大学のホールは大勢の聴衆で埋め尽くされていた。彼らが待っていたのはバラク・オバマ米大統領。僧侶のガンビラは最前列で、オバマの歴史的な演説に耳を傾けた。
それはミャンマーにもガンビラにも、大きな意義のある瞬間だった。ガンビラはその5年前、軍政に反対する「サフラン革命」と呼ばれる全国的な抗議運動を率いていた。当局の取り締まりによって、彼をはじめ多くの反軍政派指導者が収監され、ひどい拷問を受けた。
だから、ガンビラが恩赦により釈放されて間もなくオバマの演説を聴くことを許されたのは、大変な出来事だった。ミャンマーに重大な変化が訪れる予兆に見えた。米外交当局者が好んで言い立てる外交のサクセスストーリーかもしれなかった。
オバマは演説の中で、前年に大統領となったテイン・セインの下で達成された進展をたたえた。サフラン革命以降、「変化への願いに対し、改革案が応えてくれている」とオバマは指摘。数々の恩赦にも言及し、「政治犯が1人もいなくなる未来」を望んでいると語った。
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ガンビラはその夜、オバマと記念撮影をした。そして数週間後、再び身柄を拘束された。
今もミャンマーには何百人もの政治犯が拘束・収監されている。当時のオバマの展望からすれば、この国がまだ「変化への願い」に応えていない証拠だ。
政治犯には学生の活動家やその支援者もいる。フェイスブックに風刺的な投稿をして「オンラインでの名誉毀損罪」に問われた市民もいるし、報道内容を理由に収監されたジャーナリストや、反政府的な詩を書いた詩人もいる。
ガンビラの場合は、拘束と釈放を繰り返している。今年1月半ばには、現在の居住地であるタイからミャンマーに違法に入国した容疑で、令状もなしに逮捕された。
先月には正式に起訴され、実刑は免れないようだ。長期にわたる拘束は、過去の収監が原因で深刻な精神疾患を抱えるガンビラの健康に大きな影響をもたらしている。しかし保釈要求は繰り返し却下されている。
邪魔をする憲法の規定
ガンビラの家族によれば、彼の精神状態について専門家が証拠を提出しているが、判事が目を通そうとしないという。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア副部長のフィル・ロバートソンは、政府側の対応について、「ガンビラが軍事政権に行ってきた長年の抗議行動に対する、政治的な動機からの報復だ」と語る。
ガンビラが刑務所に再び送られたことからも分かるように、ミャンマーでは民主化が始まって以降、人権をめぐる状況は迷走し、ともすれば後退してきた。一部に実質的な進展が見られた一方で、軍とその配下の機関によるひどい権利の侵害が続いているのだ。