ドイツを分断する難民の大波
事件後の1月9日、PEGIDA(ペギーダ)(西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者)がケルンで行ったデモには約1700人が参加した。その2日後、ライプチヒでは約250人の右翼が暴徒化し、移民の店舗や住宅を襲って破壊や略奪を行った。
国境封鎖も効果なし?
排外主義の追い風に乗って勢力を拡大しているのはPEGIDAだけではない。タブロイド紙ビルトが1月に発表した世論調査では、次期選挙で右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に投票すると答えた人は12.5%に上った。AfDのフラウケ・ペトリー党首は、「必要なら銃も使用して不法入国を止めるべきだ」と主張している。
新年の演説で「心に憎悪を抱く」人たちに扇動されないよう国民に訴えたメルケル。そうは言っても、連立政権の内部からも起きている批判の大合唱を無視するわけにはいかない。
バイエルン州の地方政党で、CDUの姉妹党・キリスト教社会同盟(CSU)のホルスト・ゼーホーファー党首は先月末、メルケルに書簡を送った。難民政策を見直さなければ、連邦憲法裁判所に提訴するという半ば脅しのような内容だ。
CDU内部でも受け入れを制限すべきだという意見が圧倒的に多いと、レングスフェルトは言う。「支援したいのはやまやまだが、ドイツ社会の隅々までしわ寄せを受けている」
大連立の一角を担う中道左派の社会民主党(SDP)も上限なき受け入れにはノーの立場だ。
レングスフェルトによると、昨年流入した110万人のうち半数は難民と認定されなかった(この中にはシリアとイラクの出身者はほとんど含まれない)。それでも、いったん入国した人を国外に退去させるのは至難の業だという。「弁護士や活動家も関与し、あらゆる手段を使って送還を遅らせようとする」
次の総選挙は17年。メルケルはまだ余裕があるとみたのか、当初は政権内部の批判を抑え込むために長期的な解決策を打ち出した。昨年11月、トルコに30億ユーロの資金を援助、密航斡旋業者の取り締まり強化や難民キャンプの改善を求めたのだ。
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しかし今年に入って、連立政権内部ではAfDの勢力拡大を警戒して、即効性のある対策を求める声が高まってきた。
メルケルは1月28日、モロッコ、チュニジア、アルジェリア出身者は、政治的迫害を受けたことを証明できない限り、難民と認めないと発言。警察発表では、大みそかの襲撃の犯人の多くは北アフリカの出身者とされており、メルケルの発言は世論に配慮したものとみられる。