最新記事

欧州

ドイツを分断する難民の大波

2016年2月24日(水)17時00分
ミレン・ギッダ

 事件後の1月9日、PEGIDA(ペギーダ)(西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者)がケルンで行ったデモには約1700人が参加した。その2日後、ライプチヒでは約250人の右翼が暴徒化し、移民の店舗や住宅を襲って破壊や略奪を行った。

【参考記事】反イスラム団体代表、ヒトラーに扮した罪

国境封鎖も効果なし?

 排外主義の追い風に乗って勢力を拡大しているのはPEGIDAだけではない。タブロイド紙ビルトが1月に発表した世論調査では、次期選挙で右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に投票すると答えた人は12.5%に上った。AfDのフラウケ・ペトリー党首は、「必要なら銃も使用して不法入国を止めるべきだ」と主張している。

 新年の演説で「心に憎悪を抱く」人たちに扇動されないよう国民に訴えたメルケル。そうは言っても、連立政権の内部からも起きている批判の大合唱を無視するわけにはいかない。

 バイエルン州の地方政党で、CDUの姉妹党・キリスト教社会同盟(CSU)のホルスト・ゼーホーファー党首は先月末、メルケルに書簡を送った。難民政策を見直さなければ、連邦憲法裁判所に提訴するという半ば脅しのような内容だ。

 CDU内部でも受け入れを制限すべきだという意見が圧倒的に多いと、レングスフェルトは言う。「支援したいのはやまやまだが、ドイツ社会の隅々までしわ寄せを受けている」

 大連立の一角を担う中道左派の社会民主党(SDP)も上限なき受け入れにはノーの立場だ。

 レングスフェルトによると、昨年流入した110万人のうち半数は難民と認定されなかった(この中にはシリアとイラクの出身者はほとんど含まれない)。それでも、いったん入国した人を国外に退去させるのは至難の業だという。「弁護士や活動家も関与し、あらゆる手段を使って送還を遅らせようとする」

 次の総選挙は17年。メルケルはまだ余裕があるとみたのか、当初は政権内部の批判を抑え込むために長期的な解決策を打ち出した。昨年11月、トルコに30億ユーロの資金を援助、密航斡旋業者の取り締まり強化や難民キャンプの改善を求めたのだ。

【参考記事ド】ドイツが「国境開放」「難民歓迎」を1週間でやめた理由

 しかし今年に入って、連立政権内部ではAfDの勢力拡大を警戒して、即効性のある対策を求める声が高まってきた。

 メルケルは1月28日、モロッコ、チュニジア、アルジェリア出身者は、政治的迫害を受けたことを証明できない限り、難民と認めないと発言。警察発表では、大みそかの襲撃の犯人の多くは北アフリカの出身者とされており、メルケルの発言は世論に配慮したものとみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中