最新記事

米社会

僕らの地球を救え!子供たちの公民権訴訟

遅々として進まないアメリカの温暖化対策。このままでは地球の未来が危ない── 「気候の公正」を求めて子供たちが連邦政府を訴えた

2015年12月14日(月)16時00分
エリック・ボウルス

未来を守れ ワシントン州の子供たちは温暖化を身近な脅威と捉えている

 大人に任せていたら地球は救えない。自分たちの未来は自分たちで守らなければ──。

 アメリカで8~19歳の子供21人が「気候の公正」を求めて連邦政府を訴えた。この訴訟は気候変動問題の新たな戦線となり、今世紀の次なる公民権闘争の先駆けになる可能性がある。気候の公正とは、現在と未来のすべての人々が自らの命と自由と財産を守る安定した環境を手に入れる権利を確保することだ。 

 ローマ法王(教皇)は今年6月、環境問題で初の「回勅」を発表し、気候変動は「現代の人類が直面している主要な難題の1つ」であり、人種や経済や社会の不公正を深刻化させる人権問題だと警告した。気候学者たちも温暖化の流れを止めるのに残された時間はわずかしかないと警鐘を鳴らす。子供たちにとったら、まさに危機迫る問題だ。

 オバマ政権は8月、二酸化炭素(CO2)排出量に対する規制の強化を発表したが、削減幅は十分とはいえない。最新の研究でも、特にアメリカのように長年にわたり大量のCO2を排出してきた国は、地球環境に取り返しのつかない変化が生じてしまう前に、大胆で抜本的な措置を講じる必要があると指摘している。

 今回の訴訟は一見、ディズニー映画の筋立てそのもの。元気いっぱいの勇気ある子供たちがアメリカ大統領に戦いを挑む。果たして子供たちは世界を救うことができるのか──。

 そんな主役の子供たちを法的にサポートしているNPO「アワ・チルドレンズ・トラスト」は、同様の訴訟を数年前から手掛けている。例えばワシントン州では昨年、子供たちが排出規制強化を求める嘆願書を提出。これに目を留めた州知事が子供たちと対面し、排出規制の強化を打ち出すに至った。

「子供は気候変動が自分たちの未来にどんな脅威をもたらすか分かっている」と、嘆願書を出したうちの1人、ゾーイ・フォスター(13)は言う。「政府が何もしないのを黙って見ているつもりはない。ぐずぐずしている暇はない。政府が本気で温暖化防止に取り組むまで圧力をかけ続ける」

 さて、話を対連邦政府訴訟に戻すと、先日、化石燃料業界から思わぬ横やりが入ってきた。全米石油協会、全米製造業者協会、米燃料・石油化学製造協会といった業界3団体が、今回の訴訟は「化石燃料ビジネスへの直接的脅威」であり、子供たちが勝訴すれば「大規模な社会的変化と空前の経済再編」を引き起こしかねないと主張してきたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税引き上げ、中国が強い不満表明 「断固とした措

ビジネス

アリババ、1─3月期は売上高が予想上回る 利益は大

ビジネス

米USTR、対中関税引き上げ勧告 「不公正」慣行に

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中