韓国教科書論争は終わらず
教科書国定化論争で表面化した韓国の深刻な分断。歴史問題を利用する朴大統領ら政治家たちの思惑とは
大論争 朴正煕元大統領(中央、撮影は1973年)の評価は真っ二つに分かれる Baek, Jong-sik-WIKIMEDIA COMMONS
韓国政府は先週、中学校と高校で使われる歴史教科書の国定化を決めた。これにより、各校が複数の検定教科書から1冊を選んでいた従来の制度は廃止され、17年3月の新学期から、国定教科書に一本化される。
この問題をめぐっては、政治家だけでなく世論も巻き込み、文字どおり国内を二分する大論争に発展していた。韓国では来春に総選挙、17年には大統領選挙が予定されており、保守派もリベラル派もそれを大いに意識した議論を展開した。
ただ、韓国の政治では、争点そのものよりもアイデンティティーや指導者の正統性に対する考え方が有権者の政治的態度を左右することが多い。教科書問題をめぐる議論も、詰まるところ正統性をめぐる右派と左派の対立と重なる部分が大きい。
朝鮮王朝時代、国王の息子でもないのに国王に就いた君主の多くは、死んだ実父の地位を国王級に引き上げることで、自らの正統性を強化することに全力を注いだ。
朝鮮史をよく調べると、この王朝時代のお決まりのパターンが、何度も繰り返されたことが分かる。現代の北朝鮮でも同じ現象が起きている。
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領も同じことをしようとしているようだ。朴はかねてから、父である朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の知名度と影響力を武器に、政治家として頭角を現してきたとされる。それだけに、父親に付きまとう不名誉な評価を変えたいという思いがあるようだ。
朴正煕は18年間にわたる軍政で目覚ましい経済開発を指揮する一方、人権や政治的自由を徹底的に弾圧する独裁体制を敷いた。さらに若いとき、日本の影響下にあった満州国の士官学校に入り、実質的に日本軍の指揮下にあった満州国軍に加わるなど、韓国人として永久に消えることのない汚点を持つ人物とみられている。
だが娘である朴槿恵は、政界入りする前の89年に受けたMBCテレビのインタビューで、61年に朴正煕が起こした軍事クーデター(516軍事政変)は、「国家を救うための革命」だったと明言。この「革命」がなければ、韓国は共産主義者の手に落ちていたと主張し、父親の「ゆがめられた歴史を正すこと」が、自分にとって最も重要な目標だと語った。歴史教科書の国定化はその大きなチャンスだ。
問われる「日帝」との関係
この問題で、朴の最大の味方になってきたのは、与党・セヌリ党の金武星(キム・ムソン)代表だ。金の父親も日本占領下の韓国で、やり手のビジネスマンとして財を成すとともに、日本軍の下で太平洋戦争に協力するよう韓国の若者に強く促した。