南シナ海、米中心理戦を読み解く――焦っているのはどちらか?
オバマ大統領は、第一期の就任直後に、ただ言葉で「核なき世界の実現に向けて国際社会に働きかける」と言っただけでノーベル平和賞を受賞してしまった(2009年10月)。だから自ら戦争を拡大させるわけにいかない。ノーベル賞などをもらって、自分の首を絞めてしまったために、「外交が甘すぎる」と批判され、大統領選で民主党が危ない。上院も下院も共和党議員の数の方が多い。これで大統領まで共和党になったのでは、オバマ氏としては生涯の汚点となろう。そこで南シナ海もシリアも同時に、汚名回復を狙うために「進撃」しているに過ぎない。
3.米中の出来レース
特に南シナ海の人工島周辺における駆逐艦出動に関しては、今年の5月から米中両軍の間で、水面下における話し合いが成されてきた。そもそも今月2日から5日にかけて、アメリカ太平洋軍のハリス司令官が訪中し、中国軍と対話を行うことになっている。
中国のCCTVでは、ラッセンが人工島の12カイリ内を航行している時でさえ、「米中両軍は友好的な交流を継続している」と解説しているほどだ。
アメリカは大統領選があるため、アメリカ国民に見せるために、ある意味での「目に見える強がり」のパフォーマンスを演じているだけとしか思えない。
おまけに南シナ海の「紅い舌」で中国が領有権を主張している個所を避けて、あえて「人工島」だけを選んだのは、中国には1992年に制定した領海法があり、そのときアメリカはフィリピンから撤退しただけで、中国に対していかなる抗議もしなかったことを自覚しているせいだろう。
この詳細は4月21日付の本コラム「すべては92年の領海法が分かれ目――中国、南沙諸島で合法性主張」で書いたので、ここではくり返さない。
日本は92年のときもそうだったが、今回も同じように、表面に出てきた現象しか見ようとしない傾向にある。その奥に秘められている中国のしたたかさを見逃していると、92年のとき同様に、中国を喜ばせるだけだ。
中国は「人民元の国際化」という、最大の目標を、確実に手にしようとしているのである。それが、今回のラッセン出動だ。米中の「心理戦」を見誤らないようにしたいものである。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。