最新記事

秘話

戦時下「外国人抑留所」日記

2015年8月10日(月)12時10分
長岡義博(本誌記者)

 日記の最大の特徴は、日本人とイギリス人のどちらの心情も理解できるデュアの目を通して、知られざる戦時下の抑留生活が冷静に書きとめられている点にある。そこで描かれているのは、日本人と抑留された外国人の「文明の衝突」。そして日本人であるか、外国人であるかを問わない人間性の本質だ。


「すばらしい秋晴れ、ちょっと肌寒い」

 1944年10月22日、日記の第一日はこんな一文から始まっている。デュアが日記を書き続けた10カ月間は日本にとって戦局が悪化し、本土の主要都市への空襲が続いた時期だった。足柄山のふもとの抑留所でも物資・食糧不足が深刻化し、十分な医療を受けられず抑留者5人が死亡した。

 物資や食糧の不足がもたらすストレスは、抑留所を管理する警察官や同じく収容されている外国人メンバーへの不満となって噴き出す。

「薪不足でもう一週間も風呂がない。それなのに警察のやつらはいつでも好きな時に入っている。バカバカしいではないか、僕らは毎日、一日中ただ働きさせられ埃まみれだと言うのに風呂もない」(10月24日、英文)

「日曜日には大概警備員が附いていないから中にはなまけて嫌な仕事をしないで楽な事ばかりしている奴がいる。ジョン・ゴメスやビル・ブレイミ等若いのはよく働くが三十以上になると饒舌で口ばかりうまくてずるい」(10月29日、日本語)

 本来は味方同士である外国人抑留者も、長期化する抑留のストレスから険悪になる。デュアは仲間への不満、そして将来への不安と焦りを素直に日記に書く。

「ああ憂鬱だ。......将来への望みも野心もなくなった。好きな科学の書物も一寸も読まない。これでは科学の焔も消えてしまうかもしれない。結局学校に帰れないのではなかろうか。もう三カ月で満二十六歳だ」(10月31日、日本語)

 強制された不自由な生活の中での唯一の楽しみは食事だが、戦局悪化で外国人たちは飢えに直面する日々が続いた。わずかな配給の食糧を補う赤十字の支援もあったが、警察官やコックの横領が日常化していて、彼らの手に渡るのはごくわずかだったようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ショルツ独首相、2期目出馬へ ピストリウス国防相が

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中