最新記事

中東

穏健サウジの「ぶった切り広場」

2014年12月25日(木)16時05分
ジャニーン・ディジョバンニ

欧米諸国は見て見ぬふり

 首のない死体をさらす方法はいくつかある。首なし死体をクレーンで持ち上げることもあるが、柱が使われるほうが多い。ビニール袋に入れた頭部は持ち上げられた胴体より高いところに、浮いたような状態で掲げられる。犯罪の行く末を示すグロテスクな見せしめとして、死体は最長4日間、そのままにされることもある。

 ここに詳述したサウジアラビアにおける斬首の光景は、すべて筆者が多くのビデオ映像で確認したものだ。映像はある人権団体が提供してくれたもので、斬首の残忍さをアピールし、執行数の増加に警鐘を鳴らすのが目的だ。

 今年の場合、6〜7月のラマダン(断食月)後、8月4日から9月22日の間に31人が首をはねられた。およそ2日に1人の割合で刑が執行された計算だ。31人目の犠牲者の罪状は「魔術を使った」ことだった。

 その後の数週間は平穏に過ぎた。10月初めの時期が、年に1度のハッジ(メッカ巡礼)の期間だったからだろう。イスラム教のハッジは、信者の男性が一生に一度はやらねばならない宗教上の義務で、全世界から数百万人がメッカに集まる。だから混乱を避けるために斬首刑の執行が途絶えたらしい。

 ケチチアンによれば、過去数年の死刑執行に関する統計を見ると、サウジアラビア政府が年間の斬首刑執行数を一定のレベルに維持していることが分かる。今年の斬首刑執行数はまだ昨年の総数(79件)に達していないから、これから執行のペースは再び上がるだろうとケチチアン指摘する。

「あくまでも推測でしかないのだが」と、ケチチアンは言う。「今年はゆっくりしたペースで始まり、ラマダンが終わると急に増えた。1カ月以上の間、1日1件執行された。私の推測では、メッカ巡礼の期間に続くイスラムの謝肉祭が終われば、政府は目標とする年間執行数を消化しようとするだろう」

 サウジアラビアの豊かな原油と、その戦略的・軍事的な重要性から、アメリカもEUも現体制を強力に支持している。だから恐ろしい時代遅れの公開処刑にも、表立っては苦言を呈さない。ジョン・ケリー米国務長官は9月にサウジアラビアを訪れて、ISISに対する有志連合を結成するためにアラブ各国の外交官と話し合ったが、人権侵害の話題には触れなかった。

 しかし、これは明らかなダブルスタンダードだ。サウジアラビアの地政学的なライバルであるイランに対しては、アメリカの政治家はよく人権侵害を非難する。だが実のところ、イランの政治過程はサウジアラビアよりもはるかに民主的だ。

 ではなぜ、サウジアラビアには目をつぶるのだろうか。ISISの斬首はおぞましいが、サウジアラビアの場合は見て見ぬふりだ。

「ISISの行為を非難するサウジアラビアが、自分の国では残酷な刑罰の執行を認めていることには矛盾がある」と、レバノンの首都ベイルートにあるカーネギー中東センターのリナ・ハティーブは言う。

「自国の囚人には死刑を宣告する一方で、サウジアラビア政府はISISの暴力を非難する声明を出している。つまり、彼らが非難しているのは暴力そのものではなく、その合法性の欠如だということになる」と、ハティーブは言う。要するに「国家による暴力は許されるが、国家ではない主体の暴力は許されないということだ」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、NYマンハッタンの「渋滞税」承認 1月5日から

ワールド

トランプ氏、農務長官にロフラー氏起用の見通し 陣営

ワールド

ロシア新型中距離弾、実戦下での試験継続 即時使用可

ワールド

司法長官指名辞退の米ゲーツ元議員、来年の議会復帰な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中