穏健サウジの「ぶった切り広場」
欧米諸国は見て見ぬふり
首のない死体をさらす方法はいくつかある。首なし死体をクレーンで持ち上げることもあるが、柱が使われるほうが多い。ビニール袋に入れた頭部は持ち上げられた胴体より高いところに、浮いたような状態で掲げられる。犯罪の行く末を示すグロテスクな見せしめとして、死体は最長4日間、そのままにされることもある。
ここに詳述したサウジアラビアにおける斬首の光景は、すべて筆者が多くのビデオ映像で確認したものだ。映像はある人権団体が提供してくれたもので、斬首の残忍さをアピールし、執行数の増加に警鐘を鳴らすのが目的だ。
今年の場合、6〜7月のラマダン(断食月)後、8月4日から9月22日の間に31人が首をはねられた。およそ2日に1人の割合で刑が執行された計算だ。31人目の犠牲者の罪状は「魔術を使った」ことだった。
その後の数週間は平穏に過ぎた。10月初めの時期が、年に1度のハッジ(メッカ巡礼)の期間だったからだろう。イスラム教のハッジは、信者の男性が一生に一度はやらねばならない宗教上の義務で、全世界から数百万人がメッカに集まる。だから混乱を避けるために斬首刑の執行が途絶えたらしい。
ケチチアンによれば、過去数年の死刑執行に関する統計を見ると、サウジアラビア政府が年間の斬首刑執行数を一定のレベルに維持していることが分かる。今年の斬首刑執行数はまだ昨年の総数(79件)に達していないから、これから執行のペースは再び上がるだろうとケチチアン指摘する。
「あくまでも推測でしかないのだが」と、ケチチアンは言う。「今年はゆっくりしたペースで始まり、ラマダンが終わると急に増えた。1カ月以上の間、1日1件執行された。私の推測では、メッカ巡礼の期間に続くイスラムの謝肉祭が終われば、政府は目標とする年間執行数を消化しようとするだろう」
サウジアラビアの豊かな原油と、その戦略的・軍事的な重要性から、アメリカもEUも現体制を強力に支持している。だから恐ろしい時代遅れの公開処刑にも、表立っては苦言を呈さない。ジョン・ケリー米国務長官は9月にサウジアラビアを訪れて、ISISに対する有志連合を結成するためにアラブ各国の外交官と話し合ったが、人権侵害の話題には触れなかった。
しかし、これは明らかなダブルスタンダードだ。サウジアラビアの地政学的なライバルであるイランに対しては、アメリカの政治家はよく人権侵害を非難する。だが実のところ、イランの政治過程はサウジアラビアよりもはるかに民主的だ。
ではなぜ、サウジアラビアには目をつぶるのだろうか。ISISの斬首はおぞましいが、サウジアラビアの場合は見て見ぬふりだ。
「ISISの行為を非難するサウジアラビアが、自分の国では残酷な刑罰の執行を認めていることには矛盾がある」と、レバノンの首都ベイルートにあるカーネギー中東センターのリナ・ハティーブは言う。
「自国の囚人には死刑を宣告する一方で、サウジアラビア政府はISISの暴力を非難する声明を出している。つまり、彼らが非難しているのは暴力そのものではなく、その合法性の欠如だということになる」と、ハティーブは言う。要するに「国家による暴力は許されるが、国家ではない主体の暴力は許されないということだ」。