最新記事

中東

穏健サウジの「ぶった切り広場」

2014年12月25日(木)16時05分
ジャニーン・ディジョバンニ

死刑を見慣れている群衆

 最近では処刑人の数が不足しており、それが理由で昨年は斬首刑の廃止案も浮上した。内務省と司法省、保健省のメンバーで構成される委員会は昨年、「公式処刑人が不足していること、一部のケースで執行場への到着の遅れがあったことを考えると(斬首刑の廃止も)現実的な」選択肢だとする声明を出している。おそらく、現在も検討が続いているものと思われる。

 処刑人(常に男性)は絶対に受刑者と話をしない。淡々と受刑者の罪状を告げ、コーランの一節を読み上げるのみだ。

 そしてあなたは目隠しをされる。これは極めて重要な手順だが、決して人道的理由からではない。剣が振り下ろされたとき、あなたが恐怖で体を動かすと面倒なことになるからだ。一度で切断できないかもしれないし、狙いが外れる可能性もある。血がビニール袋の外にまで飛び散ったり、首があらぬ方向に飛んでいって「回収」が難しくなる可能性もある。

 あなたは、首回りの肌の柔らかいところを露出した衣服を着ている。両手は背中の後ろで縛られている。こうなったら、もう身動きはしないことだ。なぜか。雇い主の生後4カ月の息子を殺した容疑で有罪となったスリランカ人のメード、リザナ・ナフィーク(24)の処刑映像を見れば分かる。彼女は体を左右に動かしてしまい、そのせいで首を切り落とすのにひどく手間取った(ナフィークは無罪を主張していたが、13年1月に斬首刑が執行された)。

 集まった群衆の間から興奮した声が上がることもある。「彼らは死刑を見慣れている」と、アムネスティ・インターナショナルのサバグ・ケチチアンは言う。死刑の執行日は公式に発表されるわけではないが、それでも噂はあっという間に広まる。

 広場では警備員たちが持ち場につき、遺体回収用のジープも定位置で待機する。アルベシによれば「そこで私が死刑執行命令書を読み上げ、合図で受刑者の首を切り落とす」。

 たいていの場合、死は一瞬で訪れる。剣が振り落とされたときに首が真っすぐに保たれていれば、切断は驚くほど「きれいに」行われる。だが一度で終わらないこともある。

 切り落とされた頭は、まるで壊れた人形の頭のように体から分離し、胴体の前か脇に転がる。それでもしばらくは心臓が動いているから、胴体はピクピクと痙攣を続ける。処刑人はここで一歩下がり、別の人物が進み出て頭を拾い上げる。また別の人物が胴体を回収し、ジープに積み込む。

 さて、あなたは死んでも解放されない。公開処刑は国民に、「サウジアラビアでは体制への異議申し立ては許されない」ことを見せつけるために行われている。犯罪の内容は大音響の拡声器で告げられる。あなたの死体がすぐに埋葬されれば幸運だ。しかし罪によっては、はりつけにされることもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日米豪印が外相会合、トランプ政権発足直後に中国けん

ビジネス

EU一律の新興企業ルール導入を、米への流出阻止=欧

ビジネス

イスラエル、債務残高の対GDP比率が69%に上昇 

ワールド

議事堂襲撃事件、大統領恩赦で大量釈放、世論調査60
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 7
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 8
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「敵対国」で高まるトランプ人気...まさかの国で「世…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中