穏健サウジの「ぶった切り広場」
量刑は裁判官の自由裁量
斬首刑を適用されるのは殺人犯だけではない。大半は不倫や「魔術の使用」、あるいは麻薬関連の罪だ。8月には「麻薬の受領」で4人が処刑された。
「死刑は犯罪だ。あとで冤罪と分かっても、間違いを正すすべがない」と言うのは、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアダム・クーグルだ。「本当に取り返しがつかない」
サウジアラビアには近代的な刑法がなく、刑の宣告はたいてい裁判官の自由裁量に任されている、とクーグルは言う。今年、斬首刑を執行された59人のうち、20人は麻薬密売の罪に問われた人々だ。
匿名を希望するある活動家によれば、こうした死刑囚は「麻薬の大物売人ではなく、麻薬の所持で捕まった人たちだ。サウジアラビアの南部はイエメンに近く、政府に反感を抱く住民も多いため、当局は特に神経をとがらせており、麻薬の密輸も厳しく取り締まっている」。
斬首される人の多くはサウジアラビア国民だが、その他の中東諸国の出身者もいるし、パキスタンからやって来た密輸業者もかなりの数に上る。
強盗、殺人、麻薬、児童性愛に加えて、斬首刑に処せられるもう1つの犯罪カテゴリーは政治犯だ。11〜12年に立ち上がったシーア派住民のように、政府に抗議したり、改革を要求した活動家たちの場合、刑の宣告から処刑まで待たされる苦痛に満ちた期間は数カ月、時には数年に及ぶ。
12年7月に逮捕されたシーア派の聖職者ナムル・アルニムル師も、処刑を待つ政治犯の1人だ。裁判所は、演説で暴力を誘発し、シーア派住民の多くが住む東部行政区で起きた騒乱をあおったという理由でアルニムルに死刑の判決を下した(彼の18歳未満の甥も斬首刑を宣告されている)。
サウジアラビアは欧米にとって、ISISとの戦いにおける重要な同盟国だ。だからといって残忍な公開処刑を見て見ぬふりでいいのだろうか。
「アメリカをはじめ先進諸国が、ISISの蛮行を含めたアラブ地域における人権侵害を本気で問題視していることを知らしめたいのなら」と、アムネスティのケチチアンは言う。「同じ基準を、最も親しい同盟国にも適用しなければならない」
[2014年11月 4日号掲載]