最新記事

原発

汚染水の語られざる現実【前編】

2013年12月24日(火)16時13分
リード・タナカ(元在日米軍司令官放射能問題顧問)、デービッド・ロバーツ(物理学者・元駐日米国大使科学顧問)

タンク漏れの害は小さい

 雨水も複雑な要因だ。パイプから水が滴っていたり、その下に水たまりがあるのが目視で確認されれば、漏水の可能性を調査する必要があるが、雨が降るとどこもかしこも調査しなくてはならなくなる。

 雨水自体もチェックし、処理しなければならない。この秋は2度も台風による大雨が降り、タンクエリアのせきは縁まで水でいっぱいになった。この水も、少しでも汚染されれば貯留しなければならなくなる。

 貯留タンクも大問題だ。現在、約1000基のタンクがパイプでつながれており、合計でオリンピックの競泳用プール120個分に相当する水でいっぱいになっている。汚染水は増え続けるから、さらに多くのタンクを建設中だ。

 膨大な数の貯留タンクを建設し、管理するには途方もない手間が掛かる。一部のタンクに不備があって漏れが見つかる事態もある意味、起こるべくして起きた。

 今年に入って、程度はさまざまだがタンクの漏水が何度も見つかっている。そのたびに大きく報道されているが、このようなタンクやパイプの漏れであれば、その影響はごく限られたものと考えていい。

 タンク内の汚染水のほとんどは、セシウム除去のフィルターを通して(完全な除去はできないにしても)放射能のレベルを大幅に減少させた後のものだ。それにこれらのタンクは海から何百メートルも離れているから、タンクからの漏水で海水が汚染される可能性も低い。

 8月には1度、約300トンという飛び抜けて量の多い汚染水漏れが見つかり、このときは原子力規制委員会が国際原子力事象評価尺度(1〜7レベル)でレベル3の「重大な異常事象」だと宣言している。

 それでも外部の環境に漏れ出した放射性物質は、海岸線での放射能計測値にまったく変化が出ない程度のものだった。このときに比べれば、その他の漏水ははるかに影響の小さいものだった。

 タンクからの水漏れくらいは心配ない、と言うのではない。汚染水のモニタリングと管理だけでも大変な作業であり、疲弊している現場の作業員にさらなる重荷を課すことになる。

 タンクの水漏れは、作業の質より量とスピードが求められる、場当たり的な応急処置の当然の結果でもある。だから長期的な解決策とならないことは想定済みだ。汚染水漏れのニュースは不安をあおり、不安ゆえに健康を害する人もいるだろう。

 だがタンクから漏れた水が環境に及ぼす影響は微々たるものだ。むしろ影響が大きいのは地下水の汚染で、対策もそこに焦点を当てるべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ

ワールド

米、ロシアが和平合意ならエネルギー部門への制裁緩和

ワールド

トランプ米政権、コロンビア大への助成金を中止 反ユ

ワールド

ミャンマー軍事政権、2025年12月―26年1月に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 5
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中