汚染水の語られざる現実【前編】
タンク漏れの害は小さい
雨水も複雑な要因だ。パイプから水が滴っていたり、その下に水たまりがあるのが目視で確認されれば、漏水の可能性を調査する必要があるが、雨が降るとどこもかしこも調査しなくてはならなくなる。
雨水自体もチェックし、処理しなければならない。この秋は2度も台風による大雨が降り、タンクエリアのせきは縁まで水でいっぱいになった。この水も、少しでも汚染されれば貯留しなければならなくなる。
貯留タンクも大問題だ。現在、約1000基のタンクがパイプでつながれており、合計でオリンピックの競泳用プール120個分に相当する水でいっぱいになっている。汚染水は増え続けるから、さらに多くのタンクを建設中だ。
膨大な数の貯留タンクを建設し、管理するには途方もない手間が掛かる。一部のタンクに不備があって漏れが見つかる事態もある意味、起こるべくして起きた。
今年に入って、程度はさまざまだがタンクの漏水が何度も見つかっている。そのたびに大きく報道されているが、このようなタンクやパイプの漏れであれば、その影響はごく限られたものと考えていい。
タンク内の汚染水のほとんどは、セシウム除去のフィルターを通して(完全な除去はできないにしても)放射能のレベルを大幅に減少させた後のものだ。それにこれらのタンクは海から何百メートルも離れているから、タンクからの漏水で海水が汚染される可能性も低い。
8月には1度、約300トンという飛び抜けて量の多い汚染水漏れが見つかり、このときは原子力規制委員会が国際原子力事象評価尺度(1〜7レベル)でレベル3の「重大な異常事象」だと宣言している。
それでも外部の環境に漏れ出した放射性物質は、海岸線での放射能計測値にまったく変化が出ない程度のものだった。このときに比べれば、その他の漏水ははるかに影響の小さいものだった。
タンクからの水漏れくらいは心配ない、と言うのではない。汚染水のモニタリングと管理だけでも大変な作業であり、疲弊している現場の作業員にさらなる重荷を課すことになる。
タンクの水漏れは、作業の質より量とスピードが求められる、場当たり的な応急処置の当然の結果でもある。だから長期的な解決策とならないことは想定済みだ。汚染水漏れのニュースは不安をあおり、不安ゆえに健康を害する人もいるだろう。
だがタンクから漏れた水が環境に及ぼす影響は微々たるものだ。むしろ影響が大きいのは地下水の汚染で、対策もそこに焦点を当てるべきだ。