最新記事

原発

汚染水の語られざる現実【前編】

2013年12月24日(火)16時13分
リード・タナカ(元在日米軍司令官放射能問題顧問)、デービッド・ロバーツ(物理学者・元駐日米国大使科学顧問)

 原子炉内に残る核燃料も使用済み燃料プールに保管されている燃料棒も、11年秋以降は安定している。急造の冷却システムがうまく機能しているからだ。4号機の使用済み燃料プールから燃料棒を取り出して、作業員が近づける場所に移す準備も進んでいる。放射能は自然に減っていくから、燃料棒が過熱する可能性は時間の経過とともに減少している。

 その他の対策も、それなりに成功している。フィルターと建屋カバーによって空気中への放射性物質の拡散は遮断されているし、放射性物質を含んだちり粒子の再飛散も吸着剤によって最小限に抑えられている。

 困難な条件下で大量の汚染水を封じ込める仕組みも、ある程度は有効に機能している。汚染水の大部分は現在、建屋の地下、各種トレンチ(地下道)、専用のタンクや貯水池にためられている。

 しかし、このような封じ込めの努力は、地下水と雨水という容赦ない自然の力に脅かされている。汚染水の量が増え、漏水のニュースが度重なって、すべての汚染水をいつまでためておけるのか、そもそもためておくのは賢明なのか、ということを考えなければならない。

 当面の重要問題は汚染水漏れだ。しばしば混同されていることだが、地下水によって運ばれる放射能汚染の問題と、タンクなどからの漏水問題は性質が異なる問題だ。

 地下水、雨、潮の干満など天然の水の作用で引き起こされる水の汚染は通常、放射能の濃度が比較的低いが、水の総量は非常に多い。一方、タンクや処理システムからの漏水では、汚染水の量は少ないが、放射能の濃度は前出の天然の水のケースより高い。この2つの問題には異なる種類の困難があり、別々の解決法が必要だ。

 被害を受けた原子炉建屋はそれぞれ地下の水路やトンネル、トレンチでつながっており、汚染水が移動する通路はいくつもある。ロボットによるビデオ撮影で分かったことだが、これらの水の流通経路のうち少なくとも1つを通じて、きれいな地下水が建屋の汚染された地下に入り込んでいた。これによって、ためておかなければならない汚染水の量が増えている。

 システム内部の汚染水は1日当たり約400トン増加する。大型ガソリン運搬車に換算して13台分だ。しかも、これは流入分から流出分を差し引いた量にすぎない。最近、地下水のサンプル検査で分かったところでは、建屋の地下やトレンチから汚染水が漏れて、その地下に染み込んでいる。地下水は海に向かって流れ、海の水には満ち引きがあるから、汚染水の一部は原発の港湾部に運ばれていく。

 東京電力は8月に、このような汚染水の漏れは事故当時から発生していたようだと結論づけている。これは周辺に流出し、海に流れ込む放射性物質の最大の経路ということになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中