汚染水の語られざる現実【前編】
原子炉内に残る核燃料も使用済み燃料プールに保管されている燃料棒も、11年秋以降は安定している。急造の冷却システムがうまく機能しているからだ。4号機の使用済み燃料プールから燃料棒を取り出して、作業員が近づける場所に移す準備も進んでいる。放射能は自然に減っていくから、燃料棒が過熱する可能性は時間の経過とともに減少している。
その他の対策も、それなりに成功している。フィルターと建屋カバーによって空気中への放射性物質の拡散は遮断されているし、放射性物質を含んだちり粒子の再飛散も吸着剤によって最小限に抑えられている。
困難な条件下で大量の汚染水を封じ込める仕組みも、ある程度は有効に機能している。汚染水の大部分は現在、建屋の地下、各種トレンチ(地下道)、専用のタンクや貯水池にためられている。
しかし、このような封じ込めの努力は、地下水と雨水という容赦ない自然の力に脅かされている。汚染水の量が増え、漏水のニュースが度重なって、すべての汚染水をいつまでためておけるのか、そもそもためておくのは賢明なのか、ということを考えなければならない。
当面の重要問題は汚染水漏れだ。しばしば混同されていることだが、地下水によって運ばれる放射能汚染の問題と、タンクなどからの漏水問題は性質が異なる問題だ。
地下水、雨、潮の干満など天然の水の作用で引き起こされる水の汚染は通常、放射能の濃度が比較的低いが、水の総量は非常に多い。一方、タンクや処理システムからの漏水では、汚染水の量は少ないが、放射能の濃度は前出の天然の水のケースより高い。この2つの問題には異なる種類の困難があり、別々の解決法が必要だ。
被害を受けた原子炉建屋はそれぞれ地下の水路やトンネル、トレンチでつながっており、汚染水が移動する通路はいくつもある。ロボットによるビデオ撮影で分かったことだが、これらの水の流通経路のうち少なくとも1つを通じて、きれいな地下水が建屋の汚染された地下に入り込んでいた。これによって、ためておかなければならない汚染水の量が増えている。
システム内部の汚染水は1日当たり約400トン増加する。大型ガソリン運搬車に換算して13台分だ。しかも、これは流入分から流出分を差し引いた量にすぎない。最近、地下水のサンプル検査で分かったところでは、建屋の地下やトレンチから汚染水が漏れて、その地下に染み込んでいる。地下水は海に向かって流れ、海の水には満ち引きがあるから、汚染水の一部は原発の港湾部に運ばれていく。
東京電力は8月に、このような汚染水の漏れは事故当時から発生していたようだと結論づけている。これは周辺に流出し、海に流れ込む放射性物質の最大の経路ということになる。