最新記事

トルコ

改革派エルドアンはプーチン並みの強権主義者

政府を批判するジャーナリストや軍関係者を検察が次々と投獄。見て見ぬふりをするエルドアン首相の強権主義が浮き彫りに

2012年4月3日(火)15時06分
オーエン・マシューズ(イスタンブール)

強権国家 地下組織「エルゲネコン」の裁判が行われる法廷の外に立つ憲兵たち(08年10月) Fatih Saribas-Reuters

 トルコのエルドアン首相は改革派で、ロシアのプーチン首相は独裁者──そんな思い込みは捨てたほうがいい。

 よく見ると、この2つの国では似たようなことが起きている。政府を批判したジャーナリストは投獄されるし、権力者に逆らう政治家は司法当局ににらまれ、裁判なしで何カ月も、時には何年も刑務所にぶち込まれる。政府に批判的な実業家には法外な税金が課される。

 それに、トルコは少なくとも2つの点でロシアより悪い評価を受けている。国境なき記者団が発表した報道の自由度ランキングでは、ロシアの142位より低い148位。欧州人権裁判所によれば、トルコでは昨年だけで174件の人権侵害があった(ロシアは133件)。

 一体何が起きているのか。レジェップ・タイップ・エルドアンは9年前、軍部の政治介入をやめさせてトルコを「先進的な民主国家」にするという公約を掲げ、圧倒的支持を得て首相になった。就任当初は公約どおり改革に取り組み、ヨーロッパもそれを歓迎した。05年にはEU(欧州連合)への加盟交渉も始まった。

 だが07年の爆弾テロ未遂事件をきっかけに、改革の歯車が狂い始めた。

 捜査当局はこの事件を、超愛国的な将校たちから成る地下組織「エルゲネコン」がクーデターを計画したものと断定し、大々的な摘発に乗り出している。これまでにジャーナリスト100人以上に加え、約250人の軍関係者が投獄された。非合法化されているクルド労働者党(PKK)の活動家や支援者として逮捕された人は、既に3500人に上る。

 こうした逮捕がエルドアンの直接の指示によるものか、それとも彼が、たまたま自分の政治目的にかなう捜査を行っていた「熱心過ぎる」検察官に同調しただけなのかは定かでない。

 確かなのは、エルドアンがエルゲネコンの訴追を支持していること、そして報道の弾圧に対する国際社会からの批判を単なる「中傷」だとはねつけていることだ。

マスコミが抵抗しない訳

 2月初旬、検察は政府にまで牙をむいた。PKK側と「国家反逆罪に相当する」接触を持った疑いで、エルドアンの腹心で国家諜報機関(MIT)トップのハーカン・フィダンに対する事情聴取を行ったのだ。

 確かにMITはPKKとの協議を行っていた。だが、それはクルド系住民と政府の和解を目指すエルドアンの指示によるものだった。「検察内部には和解を望まない者がいるようだ」と、トルコ情勢に詳しい政治アナリストのグレンビル・バイフォードは言う。「彼らにとっては、PKKへのいかなる譲歩も国家反逆罪に等しい」

 トルコでは10年に司法制度の改革が行われ、ヨーロッパもこれを歓迎した。中立的で公正な司法制度ができるはずだったが、現実には自身の政治的な思惑で強大な権力を行使する検察官がいる。その結果、銃ではなく逮捕令状を武器とする内戦が始まってしまった。

 トルコのマスコミは今、攻撃的な検察と強権的なエルドアンに挟まれて身をすくめている。コラムニストのエジェ・テメルクランは、1月に日刊紙ハベルチュルクとの契約を打ち切られた。彼は、「逮捕されたジャーナリスト2人について『多くを書き過ぎた』と警告された」と言う。

 それでも今のところ、マスコミが団結して検察や権力に立ち向かう様子はない。アメリカにある中央アジア・コーカサス研究所のギャレス・ジェンキンズは、同国のマスコミには部族主義的な体質があると指摘する。「対立する一派に関する悪い情報は無批判に受け入れる。一方で自分たちに不利な情報は、嘘や挑発として本能的に拒んでしまう傾向がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、銀行と債券市場の監視強化 深刻な問題見られ

ビジネス

ECB、米相互関税で金融政策正常化に遅れも=ギリシ

ワールド

日本は非友好的、平和条約を協議する理由はない=ロシ

ビジネス

LNG輸入や税優遇措置、インドネシアが相互関税交渉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 7
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 8
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 9
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 10
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中