イラクの次の占領者はイランかサウジか
無責任な撤退の代償とは
スンニ派自治区が誕生すれば、イラクは事実上の分裂状態になり、シーア派のイランとスンニ派のサウジアラビアはイラク国内で同胞へのテコ入れ強化を図る可能性がある。あるイラク政府の元高官は、サウジアラビア政府がスンニ派自治区創設に向けて、イラクのスンニ派指導者への資金援助を開始したことを示唆する文書を見たと語った。
サウジアラビアが影響力の強化を図ろうとすれば、イランも黙っていないはずだ。イランはイラクの現政権やサドルのような民兵組織の指導者と深いつながりを持つ。
3週間前、その影響力の大きさを感じさせる出来事があった。アメリカのレオン・パネッタ国防長官が上院軍事委員会に出席し、米軍撤退後のイラク軍の治安維持能力について説明した当日、イラク軍のトップであるババカル・ジバリ参謀長がイランの首都テヘランを訪れ、大歓迎を受けたのだ。
ジバリはかつて、米軍は2020年までイラク駐留を続けるべきだと発言した人物だが、イラン滞在中はマフムード・アハマディネジャド大統領に加えて、イラン革命防衛隊の司令官とも会談した。
アメリカ国内ではオバマ政権に対し、出口戦略を急ぎ過ぎたという批判の声が上がっている。その結果、マリキ政権はイランへの依存を強めることになったと、ブッシュ前政権でイラク戦争を推進したダグラス・ファイス元国防次官は指摘する。
だがイラクの政治的分裂状況を考えれば、やむを得ないと擁護する向きもある。国家安全保障会議(NSC)の元イラク担当責任者ダグラス・オリバントは、「私たちは民主的イラクを望み、それが現実になっただけだ」と語る。
それでもイラク人の一部には、イランとの接近は「別の占領」につながるのではないかと懸念する声もある。「アメリカによるイラク占領は災難だったが、無責任な撤退はそれ以上の災難だ。彼らが全面撤退した後のイラクは、イランに占領されてしまう」と、ムトラク副首相は言う。
しかもイランは、イラクから出ていくつもりは毛頭ない。
[2011年12月14日号掲載]