イラクの次の占領者はイランかサウジか
「スンニ派自治区」を要求
アメリカとイラク両政府は今年の夏、アンバル州と北部のクルド人地域に残す米軍兵力について長期間の難しい交渉を行った。当初は双方とも、米軍の完全撤退は想定していなかった。
だがアメリカ側は、米兵の犯罪がイラク国内法で裁かれない免責特権について、イラク側の同意を取り付けることができなかった。米政府にとって、この点はどうしても譲れない条件だったが、マリキをはじめとするイラク人政治家たちは、米兵に対する免責特権を認めることに伴う政治的リスクを嫌ったようだ。
もちろん米軍の全面撤退後も、アメリカはかなりの外交的存在感を維持する。バグダッドの米大使館に残る人員は1万6000人。その大多数は警備関係の民間人が占める見込みだ。200人前後の軍関係者もイラク軍への軍事訓練のために残る。CIAも米軍から引き継ぎ可能な情報工作や対テロ対策について、水面下で話し合いを行っている。
だが米軍が撤退すれば、これらのアメリカ人すべてが攻撃の危険にさらされる。強硬派のシーア派指導者ムクタダ・アル・サドルは先月、来年以降もバグダッドの米大使館に残るアメリカ人について声明でこう述べた。「すべて占領者であり、(米軍の)撤退期限後は彼らと戦わなければならない」
かつてサドルの支配下にある民兵組織マハディ軍が米軍への血なまぐさい攻撃を繰り返したことを考えれば、単なる脅しではない。
サドルとその支持者は宗派間対立を激化させる恐れもある。サドル派は最近、マリキ政権によるバース党関係者の大量逮捕を称賛した。「あの殺人者たちを見逃すことは、殉教者や遺族をないがしろにする行為だ」と、バグダッドの有力なサドル派聖職者タラル・サアディは言う。
大量逮捕に猛反発したスンニ派指導者は、独自の自治区創設を要求し始めた。この自治区にはサラハディン、ニナワ、アンバルの3州が含まれる可能性があり、アンバル州には油田とガス田の候補地がある。これに対してマリキを含む政府当局者は、中央政府の弱体化を図る試みだと批判している。