両性具有モデル、リア・Tのランウエー革命
彗星のごとく登場したブラジル人モデルのリア・Tが、男女の壁を越えたファッションの未来を拓く
性差を超えて 今は自信に輝くリアも10代の頃は自分のアイデンティティーを疑い自己嫌悪に陥った Thiago Bernardes-Latincontent/Getty Images
ヘビ柄の水着にピンク色のホットパンツ。そのモデルはトロピカルなセットの向こうから登場すると、見事なキャットウオークでランウエーの先端までやって来て、居並ぶカメラに向かって腰を右、左に入れてポーズを決めた。
水着からのぞく下腹部にはドラゴンのタトゥー。遠く離れた一般席からは口笛が聞こえてくる。5月30日〜6月4日にブラジルのリオデジャネイロで開かれたサマーウエアの祭典「ファッション・リオ」で、何より話題をさらったのは、モデルのリア・T(29)だった。
期間中は連日、魅力的なモデルたちがセクシーな水着姿でランウエーを練り歩いたが、すべてはリアの前座のようなものだった。そんなブラジルでいま一番ホットなニューフェースが、「彼女」でないことに誰が気付いただろう。
ファッション業界にブラジル美人が多いのは有名な話。でもリアは、ただのブラジル美人ではなく、体の性と心の性が一致しない「トランスジェンダー」のモデルだ。今年1月に初めてファッションショーに出て以来、一大センセーションを巻き起こしてきた。
数々のファッション誌の表紙を飾り、フランス版ヴォーグ誌では両性具有のヌード姿を披露した。スーパーモデルのケイト・モスとキスをしている写真がLOVE誌の表紙になったかと思えば、2月にはアメリカでオプラ・ウィンフリーの番組に出演。ビキニ姿でも男であることを悟られずに済む秘密を明かした。そして今はパパラッチに追い掛けられる身でもある。
オンライン版業界誌モデルズ・ドットコムでは、世界のトップモデルの42位にランクされているが、リオでのフィーバーぶりを見る限り、リアの人気はまだまだ上昇しそうだ。
サッカー選手の父の苦悩
ファッション業界は時代の最先端を行く業界だ。大きな話題になって売り上げを伸ばすためなら、悪趣味ぎりぎりの宣伝もいとわない。ベネトンは血しぶきを浴びた服や死刑囚の写真を広告に使い、写真家ダビデ・ソレンティは不健康そうなモデルを使って「ヘロイン・シック」というトレンドを生み出した。
「不況時のファッションは挑発的だ」と、イタリア人デザイナーのエルザ・スキャパレリは言った。第二次大戦中のことだが、それは今も変わっていない。
最近のトレンドは性別の壁を崩すことだ。イタリア版ヴォーグとフランス版ヴォーグは最近、両性具有を特集した。人気急上昇中のセルビア系オーストラリア人男性モデルのアンドレイ・ペジックは、男性服と女性服両方のショーで使われており、FHM誌で「世界で最もセクシーな女性」の98位に選ばれた。
だが時代のシンボルになるには代償を伴う。リアの本名はレアンドロ・セレーゾ。サッカーの元ブラジル代表でJリーグ鹿島アントラーズの監督も務めたトニーニョ・セレーゾの息子だ。