ロシアにとって法律は破るためにある
殺人犯にもスパイにも詐欺師にもおとがめなし。国際社会からの尊敬よりも彼らが手に入れたいものとは
無法者こそ人気者。世の中にはそんな国がある。モンテネグロでは、高級宝石店を襲う地元出身の窃盗団「ピンク・パンサー」がヒーローだ。イラン国民は傲慢な大統領を熱烈支持。なぜなら「政策には賛成できないが、アメリカに立ち向かう姿は格好いい」からだ。北朝鮮はこうした挑発と反逆を国是としている。
悲しいかな、ロシアも同類らしい。政府が堂々と、犯罪者を国際的な司直の手から守っている。例えば、この10年で最も悪質な著作権侵害をインターネット上で行ってきた2つの海賊サイトはロシアにあった。最盛期にはアクセス数でiTunesをしのぐ勢いだったという。
さすがに今はWTO(世界貿易機関)からの警告もあって、両サイトとも閉鎖されている。だが誇り高き著作権侵害者たちは、音楽も映画も無料でダウンロードするのが当然との信仰を捨てず、ついに「海賊党」なる政治団体を立ち上げている。目的は、ロシアを誰の著作物も無料で使える「著作権ヘイブン(回避地)」にすることだ(幸い、この党が選挙に候補者を擁立できる見込みはない)。
この程度ならお笑い草だが、もっと深刻な事例もある。外国で殺人や詐欺で告発された人間が逮捕もされず、むしろ英雄扱いされているケースだ。
人殺しのお尋ね者が国会議員に
例えば、元KGB(ソ連国家保安委員会)職員のアンドレイ・ルゴボイだ。イギリスに滞在していた亡命ロシア人のアレクサンドル・リトビネンコを06年に毒殺したとして、イギリスの検察当局が行方を追っている人物だが、この男は今や国民的ヒーローであり、選挙で国会議員に当選し、刑事免責特権まで手に入れている。
あるいは「美人スパイ」のアンナ・チャップマン。ロシア政府のためにスパイ活動をしたとして米国内で逮捕され、スパイ交換によって晴れて自由の身となった彼女、帰国したときにはウラジーミル・プーチン首相から称賛の言葉を贈られた。政界進出の噂もある。
政府ぐるみの「悪人隠匿列伝」の最新版は、09年に起きたエルミタージュ・ファンドの顧問弁護士セルゲイ・マグニツキーの事件に関与した政府高官と警官60人がおとがめなしとなったケースだ。
マグニツキーは、税務警察の高官がエルミタージュの関連企業を悪用して2億3000万ドル相当の税金を詐取したと告発した人物。だが逆に逮捕され、あらぬ脱税の罪で刑務所に放り込まれた。その後、獄中で健康を害したが治療を拒まれ、そのまま死亡した。
米議会は先頃、このマグニツキー事件に関与した人物へのビザ発給を禁ずる法案を可決した。法案の共同提案者に名を連ねたジョン・マケイン上院議員によれば、「このロシアの愛国者を死に追いやった者を特定し、その名を世界に知らしめ、犯罪の責任をとらせる」のが法案の狙いだ。
だがロシア側は、「大きなお世話」とばかり猛反発。ロシア外務省は「良識を逸脱」した行為だと非難し、内務省はマグニツキー逮捕で中心的な役割を果たした捜査官を昇格させてみせた。