世紀の救出作戦で目障りだったあの人
世界が見守るなか、チリ政府は見事な危機管理能力を発揮したが、ピニェラ大統領は救出劇の政治利用に大忙し
出たがり大統領 救出された1人目の作業員フロレンシオ・アバロスを抱きしめるピニェラ(赤い服の人物) Jose Manuel de la Maza-Chilean Presidency-Reuters
チリ北部のサンホセ鉱山で8月に起きた落盤事故で地下に閉じ込められていた33人の鉱山作業員の救出作戦は、家族と世界中から集まった数百人のメディア関係者が見守る中、無事完了した。
チリのセバスティアン・ピニェラ大統領が作業員たちを救出するために力を尽くしたのは確かだ。さてこのことで、大統領は政治的に何か得るものはあるのだろうか?
建国200周年にあたる2010年はチリにとって、まさに多難な1年だった。景気が低迷する中、2月には大規模な地震と津波に襲われた。夏に起きた先住民マプチェ族のハンガーストライキも長引いた。
つまりサンホセ鉱山で救出用のトンネルが坑道まで貫通したというニュースは、多事多難なこの国では歓迎すべきものだった。
世界の注目はチリに集まり、現地には数多くのメディア関係者が押し寄せた。世界中の人々がテレビに釘付けになり、1人目の作業員が地下600メートルから姿を現すのを待ちわびた。
この前例のない救出劇がクライマックスを迎える中、ピニェラ大統領は先頭に立って、成功の喜びに便乗しようとしていた。
だが救出劇は大統領に何かをもたらすのだろうか?
「無事救出は間違いなく、経済成長や雇用創出とも比べものにならないほどハッピーな瞬間になるだろう」と、ピニェラは先週述べた。経済成長うんぬんというのは、先ごろ発表された楽観的な経済見通し(10年の経済成長率を5.1%、11年の成長率を6.1%と予測)のことを指している。
統治スタイルを「民営化」
政府がなすべきことを見事にやり遂げた点に議論の余地はない。対応は迅速だったし、金を惜しまず、チリ内外からさまざまな分野の専門家のチームを集めた。NASA(米航空宇宙局)のチームは救助用トンネルの掘削や大がかりで複雑で水も漏らさぬ救出作戦の立案に力を貸した。
「ピニェラは国を『民営化』しようとしている。国の資産を売り払うという意味ではなく、民間企業の経営スタイルを政府に持ち込もうとしているという意味でだ」と語るのは、ミチェル・バチェレ前大統領の顧問を務めていたフランシスコ・ハビエル・ディアス。今はシエプランという中南米問題専門のシンクタンクで上級研究員を務めている。
「彼が公約した『新たな統治方法』が何かは今のところはっきりしていない。彼が救出劇と自分の統治スタイルをあれほど結び付けたがっているのはそのせいだ」
救出計画の指揮を取ったラウレンセ・ゴルボルネ鉱業相の支持率は、その穏やかな人柄や親身な対応のおかげで急上昇。だが大統領の支持率はそうでもない。
先週、発表された世論調査によればピニェラ政権の支持率は56%だった。「救出への努力をアピールしすぎたせいで、かえって大統領の人気への影響は小さかった。ピニェラは仕事中毒でとにかくよく動く。さまざまな問題でメディアに露出しすぎて、それが仇になっている」と、世論調査を行なった同時代現実研究センター(CERC)のカルロス・ウネエウス専務理事は言う。
ピニェラは衝動的で物事を自分のコントロール下に置きたがり、意思決定のプロセスを自らの下に集約し、問題の大小に関わらずテレビカメラの前に立って功績をアピールしたがる――そんな声は閣僚や与党同盟の内部からも聞かれる。
メディア受けを狙いすぎ
メルクリオ紙の報道によれば、ピニェラ政権が発足から半年間に世論調査に投じた額(総計で40万ドル超)は、バチェレ前政権が1年目に使った額を上回るという。