世紀の救出作戦で目障りだったあの人
世論調査への影響を慎重に計算しつつ、ピニェラは中道左派もかくやという決定を行なっては世間を驚かせている。ちなみにピニェラの右派政権が誕生するまで、チリでは20年間、中道左派政権が続いていた。
8月にはピニェラは一方的に、自然保護区の近くで予定されていた火力発電所の建設計画を中止させた。この計画には地元住民や環境保護活動家らの反対運動が沸き起こっていた。
またピニェラは、チリ経済を立て直す費用を捻出するために鉱山の採掘権料の引き上げを示唆して敵も味方をも驚かせた。出身母体である経済界とあからさまに対立する案だったからだ。
救出費用の出所は不明
今回の救出劇のテレビ中継では世界が見つめる中、危機を前にしたチリ政府の精神力と能力が国際的に試されていた。だが一方で、救出劇のせいで同じくらい差し迫った問題の存在が覆い隠されてしまった。
「まったく不条理だ。救出劇を見ていると、地震なんてなかったみたいだ。まるで忘れ去られている」とウネエウスは言う。
ピニェラが大統領に就任したのは、チリ史上最大の地震と津波が発生した2週間後だった。それから8カ月。一部の被災地の住民たちは、最初の緊急局面をいまだに乗り越えられていないと感じている。
先週、タルカやディチャト、タルカウアノといった被災地の住民組織が互いの状況を報告するための集会が開かれた。復興計画の策定に地域社会が参加できないことに批判が集まり、少なくともタルカとディチャトはいまだに「危機的状況」にあるとの声が出た。
タルカでは2800戸の仮設住宅の建設が約束されたのに、実際に完成したのは1300戸にすぎないと、非政府組織「タルカとみんな」のギジェルモ・レタマル事務局長は言う。「補助金は交付されず、いまだにテント暮らしの人もいる。非常事態は終わっていない」
地震の被害額は推計で国内総生産(GDP)の14・9%にあたる297億ドル。公共インフラの再建費用はGDPの4・2%近くに達するという。
今回の救出劇のための巨額の費用はどのように捻出されたのか。なぜ地震からの復興のために必要としている人々のもとにカネは回ってこないのか。これについて進んで話してくれる政府関係者はいない。
「政府は鉱山作業員の(救出)問題を非常にうまくさばいた。地震による緊急事態への対処も適切だった。だが復興(への対処)となるとそうでもない」と、バチェレ前大統領の顧問だったディアスは言う。「報道に持続的な影響を与えるのは緊急事態に対する最初の対応だ。だから国民の政府に対するイメージは悪くなっていないのだ」
(GlobalPost.com特約)