ハマスという内なる敵を克服する法
最も重要なのはイスラエル人とパレスチナ人の交渉でなく、パレスチナ人同士の交渉だ
イスラエル、パレスチナ双方の首脳による直接和平交渉の2回目の会合が9月14日、エジプトのシャルムエルシェイクで開かれた。交渉にとって差し迫った脅威はイスラエルが占領するヨルダン川西岸のユダヤ人入植地の拡大で、パレスチナ側は入植地での建設作業が再開されれば交渉の席を立つと脅している。だが双方にとってより複雑で難解な問題がある。和平交渉に強硬に反対しているイスラム系過激派組織ハマスの存在だ。
なぜか。イスラエル政府はその気になれば入植地の拡大を抑えることができる。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の気持ち1つで、右派連立政権を維持したまま入植地での住宅建設凍結を解除する今月末以降もパレスチナ側と交渉を続けられる。
だがハマスはパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長の管理下にはない。和平交渉のプロセスからも外れている。イスラエルとアメリカの安全保障当局者によれば、アッバスは本気でハマスを制圧しようとしている。ハマスもイスラエルに対する攻撃を実行する能力も意志も失っていない。
このようなハマスは短期的に見れば和平交渉の妨害者でしかない。90年代のハマスは和平交渉を妨害するために自爆テロで多数のイスラエル人を殺害した。最近のイスラエルは和平樹立に消極的、合意形成にも懐疑的だ。イスラエルの町に日常的にロケット弾が打ち込まれるような和平案をイスラエル側が受け入れるとは考えにくい。
長期的に見ても、ハマスがガザ地区を実効支配している事実はアッバスがすべてのパレスチナ人を代表して和平合意を進める資格があるかどうか、という疑問を投げかけている。ガザ地区にはパレスチナ自治政府の人口の40%近い住民がいる。アッバスは選挙で選ばれた「大統領」だが、その任期は20カ月前に終わり、新たな選挙は予定されていない。政権の正統性に対する疑問に答えるために、アッバスはイスラエル側との合意事項をすべて住民投票で問うか、立法評議会選挙の主な争点とすることを誓っている。
アッバスとハマスの蜜月関係を甦らせよ
ただこの戦略にはいくつかの問題点がある。和平交渉での譲歩次第で、06年の立法評議会選挙と同じようにハマスが選挙に勝つかもしれない。もっと起こり得ることは、ハマスが住民投票をボイコットしてガザで徹底抗戦すること。現在ガザには数千人の武装したハマスのメンバーがいる。いずれのシナリオも和平合意の実現に悪影響を与える。
ハマスという難問をどう解決すればいいのだろう。簡単な答えはない。イスラエルの情報機関モサドの元長官エフライム・ハレビをはじめ、イスラエルに対してハマスとも交渉するよう求める有識者もいる。イスラエルは既に拘束された兵士ジラード・シャリットの解放を求めてハマスとコンタクトを取っている。しかしハマスがパレスチナを2カ国に分割する案を拒否している以上、双方が他の問題に関して議論するのは難しい。
むしろイスラエルとアメリカはアッバスとハマスの和解を図り、07年にハマスがガザ地区を実効支配する以前に存在した両者の絶妙な権力分割を再現するべきだ。アッバスとハマスの新たな協力関係は、間違いなくイスラエルとの交渉におけるアッバスの動きを制約するだろう。しかし和平交渉にはすべてのパレスチナ人が関わることになる。