最新記事

テーマパーク

ハリーの魔法はどこへ消えた?

フロリダ州に6月オープンしたファン待望の「ハリー・ポッターの世界」。期待を胸にさっそく訪れてみると……

2010年8月18日(水)15時08分
ダン・コイス

マグルの歓声 ザ・ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッターは大勢の来園者でにぎわっているが Scott Audette-Reuters

 6月18日、フロリダ州オーランドのユニバーサル・オーランド・リゾートの中に、新しいテーマパーク「ザ・ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター(ハリー・ポッターの魔法世界)」がオープンした。

 早速足を運んでみたが、結論から言えば期待外れだった。理由を納得してもらうためには、このテーマパークで私が唯一感心した出来事を紹介することから始めたほうが分かりやすいだろう。

 「オリバンダーの杖の店」というアトラクションを訪れたときのこと。来園者の一団がうやうやしく中に入っていく。明るい陽光が降り注ぐ騒々しい屋外と打って変わって、狭くて薄暗い空間だ。緊張した面持ちの20人ほどの子供と親たちに向かって、厳かな年配の男性が朗々としたイギリス英語で語り掛ける。「ようこそ、オリバンダーの杖の店へ」

 突然、老人が1人の男の子をじっと見据える。「君は杖を必要としている」

 男の子は黙ってうなずく。年は10歳くらい。白いTシャツにクロックスのサンダルという服装で、ブランドンと名乗った。

 老人は壁のそばにある箱を手に取り、机越しに男の子の顔をのぞき込むと、箱の中の杖を手渡し、試してみなさいと言った。「あのはしごに向けて杖を掲げるんだ、ブランドン。そして『はしごよ、来い!』と呪文を唱えなさい」

 ブランドンは杖の先をはしごのほうに向け、目を見開き、自分なりのイギリス風の発音で言った。「はしごよ、来い!」。その途端に、はしごの奥にある引き出しが乱暴に開いたり閉じたりを繰り返し始めた。「君にふさわしい杖ではないようだ」と、老人は言う。

 もちろん、最後には老人がハリー・ポッターにしてやったのと同じように、ブランドンにふさわしい杖を選んでやる(正確に言えば、杖が少年を選ぶのだが)。そしてブランドンの両親は隣の土産物店で、その杖を買うことになる。値段は30ドル。

 あからさまなセールスと言えばそれまでだが、そのときブランドンは、自分がハリー・ポッターの魔法の世界の住人になったように感じていたことだろう。そばで見ていた私もそう感じていた。

作り手の想像力が不足

 問題は、このような体験を味わえる機会が他にはほとんどなかったことだ。すべてが運営母体のユニバーサル・スタジオのせいだとは言わない。私と妻が訪れた日は38度近い猛暑で、イギリスっぽい雰囲気には程遠かった(もっとも、フロリダという場所を選んだのはユニバーサルなのだが)。

 それに、待望の新テーマパークをオープン直後の日曜日に訪ねるという愚を犯したのは私たちだ。園内は息苦しいほどの人の波だった(ただし、私たちは報道関係者ということで、広報担当者に案内されて行列に並ばずにアトラクションを回れた。その点では文句を言う資格はない)。

 このテーマパークの本当の問題は、作り手の想像力不足だ。

 なるほど、ねじ曲がった煙突や、フクロウ小屋のフクロウのふんの汚れなど、魔法使いの村「ホグズミード」を見事に再現してはいる。しかし、ドラマがない。マグル(魔法を使えない人間)が当てどもなくうろつき、魔法を目撃しようと待ち構えるばかりで、その願いはかなわない。

 ああ、私は魔法を見たかったのに! 原作者J・K・ローリングの想像の世界を体験したかった。ホグワーツ魔法魔術学校の生徒や教師たちと会い、魔法や不思議な動物や不可解な出来事に驚かされたかった。魔法が現実になる世界で時間を過ごしたかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口

ビジネス

スイス中銀、物価安定目標の維持が今後も最重要課題=

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星

ワールド

COP29議長国、年間2500億ドルの先進国拠出を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中