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テーマパーク

ハリーの魔法はどこへ消えた?

2010年8月18日(水)15時08分
ダン・コイス

  このテーマパークの第一印象は最高だった。ホグワーツ特急が蒸気を上げて走り去り、ホグズミード村には雪が積もっていた。丘の上には、魔法魔術学校の生徒たちが生活するホグワーツ城が見える。本を読んで想像していたとおりの姿だった。

 最初に訪ねたのは、「ゾンコのいたずら専門店」と「ハニーデュークス菓子店」(テーマパークでは、この2店が合体して1つの店になっている)。私たちがドアのほうに歩いていくと、スタッフに制止された。「ここは出口専用です」。露骨なアメリカ英語だ。

 店内に入ると、「蛙チョコレート」や「かくれん防止器」など、おなじみのグッズを売っている。けれど、ほとんどの品物はアメリカの1ドルショップでどこでも売っているようなガラクタだ。

もしディズニーだったら

   続いて、ホグズミードの混み合った目抜き通りを歩いて、園内唯一のレストラン「三本の箒」へ。目を見張った。店はすべて木材でできていて、天井は大聖堂風。壁には鹿の枝角が飾ってある。雰囲気を壊さないように、現代風の厨房とテイクアウト用の窓口は見えないように配置してある。

 2階へと続く階段がある。階段の先には窓から陽光が差し込んでいて、屋根の垂木とほこりをかぶった古い清掃用具、旅行客のトランクに光が当たっている。2階に上がって見て回ってもいいのだろうか?

 「いいえ、あくまでも装飾ですので」と、広報担当者が言う。「でも、壁や天井を注意深く見ていれば、屋敷しもべ妖精たちの影が見えるかもしれませんよ!」

 ここは、魔法使いたちが暮らす世界とは思えなかった。観光客がやって来て、金を使い、乗り物に乗る場所にしか見えない。要するに、典型的なテーマパークだ(実際、テーマパークらしく、乗り物は面白い。「ハリー・ポッターと禁じられた旅」と題したジェットコースターのアトラクションでは、箒に乗って空を飛んでいるみたいな感覚を味わえた)。

 ローリングとの長期の交渉が決裂して、ディズニーがハリー・ポッターのテーマパークをつくる計画が破談になったことが本当に惜しまれる。ディズニーであれば、ロボットの小鬼に入場券を受け取らせたり、森番のハグリッドのペット「尻尾爆発スクリュート」にアトラクションの乗り物の邪魔をさせたりして、私たちを驚かせ、楽しませてくれたかもしれない。

 少なくともディズニーは、イギリス英語の得意な俳優を100人雇い、魔法使いの服装をさせて園内を歩き回らせ、杖を振ってささやかな「魔法」を披露させるくらいのことはしただろう。

 ホグズミードとホグワーツを一通り見物し終わると、私と妻はそれ以上見るものがないことに気付いた。フクロウ小屋のベンチに腰掛けて──頭上の垂木には動かないフクロウが止まっていた──人波を見ていた。世界がありきたりの場所だと思い出させられるのは愉快ではない。

 「三本の箒」でイギリス風にフィッシュ・アンド・チップスのランチ(これはおいしかった)を済ませた後、私はトイレに行った。作品内と同じように、女性トイレには女性の幽霊「嘆きのマートル」の叫び声が聞こえるという話だが、男性トイレをいくら探しても、何の仕掛けも用意してなかった。

 ありふれた男性トイレだ。手洗い場で蛇口の下に手をかざすと、おなじみの魔法が働いて──要するにセンサーが機能したわけだが──勝手に水が流れ出してきた。

 私は思わずため息をついた。これで満足するしかないのか。

Slate.com特約)

[2010年7月21日号掲載]

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