最新記事

アフリカ

ソマリアのアルカイダ、アルシャバブって何者?

ウガンダで連続爆破テロを起こした武装組織は残虐な恐怖支配で知られ、アメリカへもその魔手を伸ばしている

2010年7月15日(木)18時14分
ラビ・ソマイヤ

無法地帯 イスラム法の遵守を掲げるアルシャバブは多くの若者を誘拐して戦士に仕立てる(08年12月) Ismail Taxta-Reuters

 7月11日、ウガンダの首都カンパラで70人以上が死亡する連続爆発テロが起きた。翌日に犯行声明を出したのは、ソマリアのイスラム武装勢力アルシャバブだ。

 ソマリア政府との衝突を繰り返し、今回初めて国外でのテロ行為に手を染めたアルシャバブとは、一体どんな集団なのか。そしてアメリカ国内に影響を及ぼす可能性はあるのだろうか。

 過去数十年にわたってまともな政府さえ存在しないソマリアが、国家として機能していないのは周知の事実だ。現在はシェイク・シャリフ・アハメド大統領が暫定政府を率いているが、統治には程遠く、首都モガディシュさえ十分に掌握できていない。

分裂した原理主義組織から派生

 本誌記者のレノックス・サミュエルズは90年代、ダラス・モーニング・ニュース紙の特派員としてソマリアに滞在し、血みどろの内戦を取材した。

 彼によれば、20年以上独裁者として君臨したモハメド・シアド・バーレが91年に失脚すると、イスラム法廷連合(ICU)が勢力を拡大。内戦を終結させるべく米軍を中心とした多国籍軍が92年にソマリアに介入したが、その直後にICUは国土の大半を支配していたという(その後、モガディシュで米軍ヘリが撃墜された93年の悪名高き「ブラックホーク」事件を経て、米軍はソマリアから撤退した)。

 ICUは当初、腐敗と民族紛争にうんざりし、無法地帯と化した国土に法律と秩序を取り戻したいと願うソマリア国民に歓迎された。だが、イスラム法シャリアの遵守を旨とするICUは次第に軍事色を強め、不寛容な原理主義組織となっていった。

 やがて欧米が支援する暫定政府とエチオピア軍の軍事的圧力を受けて、ICUは徐々に領土を失い、分裂。そこから派生した組織の一つが、「若者」を意味するアルシャバブだった。

 2006年、キリスト教国のエチオピアがアメリカの後ろ盾を得てソマリアを侵略すると、アフリカ連合(AU)の平和維持部隊が駐留を開始。ICUの戦闘部隊となっていたアルシャバブは、首都から追放された。

 かつてICUの指導者の一人だったアハメドが、国連が支援する暫定政府の大統領に就任したが、当時アルシャバブを率いていたシーク・ムクタハル・ロボウ(アブ・マンスールの名でも知られる)らは暫定政府を拒否。以来、テロ行為を繰り返して何千人もの命を奪ってきた。

邪悪なW杯を見たソマリア人を死刑に

 アルシャバブの目的は、政府を倒し、厳格なイスラム法を適用すること。ニューヨーカー誌によれば、彼らは国連と欧米のNGO(非政府組織)も敵視しており、08年と09年には平和維持部隊の隊員など42人を殺害した。また06年にソマリアを侵略したエチオピアと、アフリカ連合に派兵しているウガンダとブルンジも敵とみなしている。

 アルシャバブの指導層の顔ぶれはほとんど明らかになっていない。幹部らがアフガニスタンでアルカイダの訓練キャンプに参加したとか、ソマリアを訪問したアルカイダ幹部から手ほどきを受けたという噂が聞こえてくるだけ。アルシャバブは07年以降、アルカイダとの連携を公言しており、米国務省の外国テロ集団のリストにも名を連ねている。

 ワシントン・ポスト紙は、アルシャバブが若者を誘拐し、戦士に仕立てることもあると報じた。「モガディシュの2つのサッカースタジアムはどちらもアル・シャバブに占拠され、新兵の訓練に使われている。新兵の大半は16歳以下だ」

 アルシャバブの戦闘員は数千人に達し、目印の赤と白のスカーフを着用している。BBCによれば、アル・シャバブの支配地域では、不貞行為を働いた女性を石打ちで死刑にしたり、窃盗犯の手足を切り落としているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

鴻海、目指すのは日産との協業 買収ではない=会長

ビジネス

中国SMIC純利益38%減、レガシー半導体投資が収

ビジネス

午前の日経平均は小幅続伸、トランプ高関税警戒が上値

ビジネス

いすゞ、米国に新生産拠点 商用車の電動化にらみ約4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザ所有
特集:ガザ所有
2025年2月18日号(2/12発売)

和平実現のためトランプがぶち上げた驚愕の「リゾート化」計画が現実に?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観察方法や特徴を紹介
  • 3
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップルは激怒
  • 4
    世界のパートナーはアメリカから中国に?...USAID凍…
  • 5
    フェイク動画でUSAIDを攻撃...Xで拡散される「ロシア…
  • 6
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 7
    便秘が「大腸がんリスク」であるとは、実は証明され…
  • 8
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 9
    0.39秒が明暗を分けた...アルペンスキーW杯で五輪メ…
  • 10
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 5
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 6
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 9
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 10
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中