ネットに巣くう戦争ポルノの闇
米軍の誤射でカメラマンが死ぬ映像が4月に公開されて衝撃を与えたが、この手の「衝撃映像」はいくらでも見られる。供給源は米軍そのものだ
フェティシズムの一種 イラクの武装勢力メンバーが撃たれる瞬間を捉えた映像 youtube
あまり鮮明な動画ではない。写っているのは3人のイラク人男性。米軍の攻撃ヘリに遠くから監視されていることに気付かないまま、そのうち2人は武器のようなものをいじっている。ヘリのパイロットに指令が下る。「奴らを撃て」
30ミリ機関砲の音が響く。「(1人)仕留めた」。パイロットが言う。「もう1人も撃て」と、無線の声が言う。ダ、ダ、ダ、ダ、ダ。2人目の男が倒れる。
3人目が隠れたトラックに砲弾が浴びせられ、はうようにして人影が現れる。「(もう一度)撃て」。無線の声がパイロットに命じる。砲撃が巻き起こした砂ぼこりが収まった後、地面には男の死体が転がっている──。
イラクから約1万キロ離れたアメリカで、ネイト・Jはパソコン画面に映し出された映像に心を奪われた。06年のその日、彼は兵士や学者が言う「戦争ポルノ」の味を初めて知った。
シールの印刷会社を経営するネイトは軍事マニア。だがイラク人3人が射殺されるこの動画は、テレビのミリタリー専門番組でも見たことがないものだった。「ワオ、という感じだった。こういう映像をもっと見たいと思った」
願いはすぐかなった。今年4月、07年にイラクでロイター通信のカメラマンらが米軍に誤射されて死亡した瞬間の映像が公開され、多くの人に衝撃を与えた。実際には、この手の「戦争系衝撃映像」はYouTubeをはじめとする動画サイトでいくらでも見つかる。
ネイト自身も今や、戦争や犯罪専門の動画共有サイト「ライブリーク・ドットコム」などに動画を800件以上アップロードしている(殺すという脅迫を受けているため名字は伏せてほしいと彼は希望した)。
米軍が戦闘の模様を収めた映像をインターネット上で公開し始めたのは、アフガニスタンとイラクでの戦争がきっかけだった。前線と「銃後」の絆を強化することが目的だった。戦場の兵士も手持ちのカメラで動画を撮影し、無人偵察機が捉えた映像を個人的に入手するようになった。
こうした動画を手にした民間人と兵士は同じことをやりだした。映像を編集してBGMを付け、ネット上で流通させ始めたのだ。
現在、公開されている戦争ポルノ動画は数千件、視聴回数は膨大な数に上る。長い戦争の出口は見えてきたが、戦争ポルノを楽しむ人は増える一方。テレビゲームと同じく、この手の動画はハイテク戦争の最も残酷な側面を歪曲し、フェティシズムの対象に変える。
始まりはアブグレイブ
戦争を捉えたイメージはこれまで、ロバート・キャパなど一部のプロの写真家によって撮影され、広められてきた。だが即時性の高いインターネットと安価な動画テクノロジーの普及で、今では誰もが目の前の情景を自分の視点で記録できるようになった。
「新しい傾向が生まれた」と、米ブラウン大学ワトソン国際問題研究所のジェームズ・ダーデリアン教授は言う。「写真と違って動画は内容をより正確に描写しているとの印象を与える。実際に正確であるかどうかにかかわらず、だ」
研究者によれば、戦争ポルノの始まりはイラクのアブグレイブ刑務所で撮影された一連の捕虜虐待写真にさかのぼる。米軍女性兵士が裸のイラク人男性を犬のように従えた画像はイラク戦争を象徴するイメージになった。
この事件の後、氾濫が始まった。米軍兵士の中には、戦争ポルノを通常のポルノを手に入れる「貨幣」として使う者も現れた。