最新記事

ヨーロッパ

ドイツはギリシャの財布じゃない

無人島でもアクロポリスでも売ればいい──放漫ギリシャの救済に反感を募らせるドイツ人。戦争の借りを払わされ続けるのはもうたくさん?

2010年3月10日(水)16時28分
アン・アップルボム

非難合戦 ギリシャの財政危機をめぐり、会談を行ったメルケル独首相とギリシャのパパンドレウ首相(3月5日、ベルリン) Thomas Peter-Reuters

「島を売れ、破産者ギリシャ人め。アクロポリスも売ってしまえ!」
──2010年3月4日付け、ドイツ最大の大衆紙「ビルト」の見出しより。

 この手のタブロイド紙の編集者は、多少正確でなくても話の核心だけ抜き出して見出しを付けることがある。上記ビルト紙の見出しはアンゲラ・メルケル独首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)のヨゼフ・シュラーマン議員の言葉を引用しているが、実際のコメントはこうだった。「破産した者は持ち物すべてを金に換えて、債権者に返還しなければならない......ギリシャは借金返済に使えそうなビルや企業、数々の無人島を所有している」

 しかし彼が意味するところは、ビルト紙の見出しの方が正確に伝えているようだ。つまり、ドイツ人はヨーロッパのために金を払うのにうんざりしている、ということだ。

 ドイツ人は、政府の財政データをひどく粉飾する無責任なギリシャ人の借金など背負いたくない。ドイツ人は、ヨーロッパ最後の頼みの綱である銀行になどなりたくない。ドイツ人は「ヨーロッパ統合」の名の下、ギリシャの財政赤字の大穴を埋めるべきだという国際社会の要求になど応えたくない。ドイツ人が声を上げてこう主張するのは、長い年月で初めてのことだ。

 タブロイド紙がアクロポリスの売却を叫ぶだけではない。硬派の日刊紙フランクフルター・アルゲマイネは、ドイツが最近、年金の受給開始年齢を65歳から67歳に引き上げた一方で、ギリシャ人は61歳から63歳への引き上げにすら抵抗していることを指摘した。「つまり将来的には、ギリシャ人が退職後の人生を楽しむために、ドイツ人は69歳まで働き続けなければならないということか」 

ギリシャがドイツをボイコット

 そんな今、見事に最悪のタイミングで、ギリシャ人がドイツへの怒りを口にしはじめた。

 ギリシャのテオドロス・パンガロス副首相はBBCラジオの取材に対し、ナチスが「ギリシャの銀行にあった黄金を奪った。彼らはギリシャから金を奪うだけ奪って、決して返金しなかった」と発言。アテネ市長は第二次大戦中にナチスがもたらした被害に対し、700億ユーロの賠償を要求した。

 ドイツに救済されることや、ヨーロッパから予算削減を要求されることを快く思わないギリシャの消費者団体は、ドイツ製品のボイコットを呼びかけている。

 表向きは、ドイツ人はこれらの発言を「建設的でない」と一蹴している。しかし内々には激怒していることがドイツのメディアから読み取れる。メディアも今回ばかりは、ドイツの政治家と国民の声を正確に反映しているようだ。

 さらに気になるのは、なぜこのタイミングでこんな問題が起きているのかということ。どのみちドイツはこれまでも、統一ヨーロッパのために金を払い続けてきた。実際の通貨だけでなく、農業補助金やEU(欧州連合)内の貧しい国々への援助、スペインやアイルランドの高速道路整備といった形で、何十年も文句を言わずに資金を拠出してきた。

 ポーランドの首都ワルシャワでは、子供の遊び場に「ヨーロッパの資金で建設」という看板が誇らしげに掲げられている。その資金のほとんどはドイツの納税者から出たものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中