ドイツはギリシャの財布じゃない
第二次大戦の借りはもう返した
ではなぜドイツ人は突然、ギリシャ人への不満を口にし始めたのか。その答えは明らかに、タイミングの悪さと関係がある。ドイツは今も事実上、不況に苦しんでいる。失業率は比較的高く、連立与党は歳出削減を誓っている。つまりドイツ人は長い間で初めて、自分たちの収入や年金、学校を含めた公的機関の今後に危機感を募らせているのだ。
よりによって経済がこんなときに、他人を救済する――それも自分たちより若い年齢で年金をもらえるような人々を救済するなんていやだとドイツ人が感じたとしても、彼らを責めることはできないだろう。
もう一つの答えは、前述のギリシャ副首相のナチス発言と関係がありそうだ。1950年代にEUの原型となる共同体が創設されたが、その原動力となったのは第二次大戦に対してドイツが抱いていた罪悪感だ。他の国々の動機はさまざまだったにしろ、ドイツからみればヨーロッパの経済・政治共同体を作るということは、ドイツという国家の特異な歴史を葬り去り、もっと大きくて望ましい形へ生まれ変わることを意味した。
やがて新たな意義も加わった。アメリカに対抗し、ヨーロッパの統一市場を作り出すべく導入された統一通貨ユーロだ(まさに今、ギリシャの財政危機によってその地位が揺らいでいる通貨だが)。
しかし各国が経済的な必要性より政治的思惑を重視するようになり、さらにドイツが国家主権を犠牲にするという初心を忘れることになれば、EUやユーロは危機に瀕することだろう。
だからこそ、ギリシャ救済に対してドイツ人が怒りを爆発させているという事実は見過ごせない。結局のところ、今のドイツは戦争を経験していない人々が動かしている。そこで議論に上る歴史問題といえば、戦時中の爆撃や戦後の国外退去処分に苦しんだドイツ人に焦点が当てられる。ドイツの行いで被害を受けたギリシャや他国の人々は議論の対象にならない。
ドイツ人は遅かれ早かれ、もう十分に犠牲は払ったしヨーロッパへの借りは返したという結論を出すだろう。美しい島々や豊かな年金に恵まれた不遜なギリシャのおかげで、ドイツがそんな決断を下す日は思ったよりも早く訪れそうだ。
*Slate特約
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