イエメンはアメリカの次の戦場か
米機爆破テロ未遂後、ワシントンに対イエメン強硬策を求める声が広がっている。下手をすればブッシュ政権の二の舞になりかねない
アルカイダの戦闘員を警戒し検問を行なうイエメンの警察官(1月5日) Ahmed Jadallah-Reuters
昨年12月25日にノースウエスト機爆破未遂事件を起こした犯人はイエメンのアルカイダ系組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」とつながりがあると見られている。このことを受け、イエメンに対して「何らかの行動」を起こすべきとの声が高まっている。
バラク・オバマ米大統領はイエメン政府との連携が優先課題だと語り、ゴードン・ブラウン英首相はイエメン問題をめぐる国際会議を提唱。ジョゼフ・リーバーマン米上院議員はイエメンが次の戦場になると警告した。
だが実際には、こうした動きは古典的な過剰反応の例となる危険をはらんでおり、そうなればまさにテロリストたちの思うつぼだ。
オバマ政権はこれまで1年、イエメン問題に堅実に取り組んできた。だが今、対応を急ぎすぎることでブッシュ政権と同じ轍を踏む危機に直面している。
イエメン問題で適切な対処を行なうには、この国と湾岸地域の複雑な政治事情をきちんと理解することが求められる。「何らかの行動」を取ったというアリバイ作りのために軍事介入や援助を検討するのではだめだし、単にアルカイダの問題だとかゲリラ対策の問題だと片付けてしまってもだめだ。
アメリカによる直接的な軍事介入は言うまでもなくばかげている。アフガニスタンでの戦いを抱えているアメリカに、イエメンに回せるような兵力や装備ない。また、アラブ世界で新たな軍事介入を行なったりすればオバマ外交はボロボロになりかねない(いい面があるとすれば、イラン攻撃の可能性がぐっと減ることくらいだ)。
世界規模のテロ対策は不可能
だがイエメン介入を正当化する机上の枠組みはすでに存在する。アメリカの新たな世界規模のテロ対策の大原則によれば、中央政府の支配が届かない地域や破綻した国家はテロリストの拠点となりやすい。だからこうした地域への支配を確立できるよう、テロ掃討のための軍事介入を行なって合法的な政府を支援しなければならない。
この原則をイエメンに大ざっぱに当てはめると、同国政府は軍事力をてこに国土全体に実効支配を広げるべきだということになる。だがこんなことをすればさらに多くの反乱と、イエメン情勢のさらなる不安定化を招くことになる。
もっと慎重に原則を適用するとすれば、新米安全保障研究センター(CNAS)のアンドルー・エグザム研究員らの最近の政策提言にもあるように、イエメン政府への広範な協力が求められることになる。
ところでイエメンにおけるアメリカの利害の本質とは何で、アメリカにとって重要な事柄に影響を与えるにはどんな介入が必要なのか。そしてどうすれば、イエメンにおけるアメリカの行動をより幅広い戦略的問題に合致させることができるのか――こうした点を慎重に検討することが重要だ。
私はこれまでも、世界規模のテロ対策という考え方はアメリカの手に余るし疲弊を招くだけだと考えてきた。イエメンという国が犯した失敗で危険が醸成される条件が生まれたとしても、ただちに大規模な行動が必要だということにはならないはずだ。
また、政治的な思惑から反射的にイエメンへの対応をエスカレートさせたり始めたりする決断をすべきではない。そして何をするにしても、湾岸やイエメンにおける重要な政治問題を真剣に考慮してからにすべきだ。AQAPは、この地域を取り囲む非常に複雑な状況のほんの一部分に過ぎない。
サウジの介入をあてにするな
アリ・アブドラ・サレハ大統領率いるイエメン政府自体、問題の一部だと言っていい。サレハは2006年の大統領選挙に公約を覆して再出馬、公正とは言えない選挙戦を行なって再選された。