イエメンはアメリカの次の戦場か
それ以来、イエメンの政治システムの状況は悪化の一途をたどっている。汚職がさらに増え、人権侵害や政治的抑圧もはびこっている。治安部隊の横暴はシーア派の反政府勢力による反乱の発生および長期化を招いた。
誠実で合法的なイエメン政府の支配地域を広げるために連携すると言えば聞こえはいいかもしれないが、そんなことはありえない。アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領が好きという人なら、サレハのことは大好きになるかもしれないが......。
サレハ政権はシーア派の反乱対策に(アルカイダ対策以上に)力を入れてきた。南部の分離独立派の鎮圧にも、そしてサレハを何としても政権の座に居座らせることにも努めてきた。
イエメン政府はもちろん、敵である反乱勢力の掃討をアメリカや国際社会が支援し、カネを出してくれれば歓迎するだろう。だからといってイエメン政府がアメリカや国際社会の望む通りに動いてくれると期待するのは大間違いだ。
平和や安定をもたらすための役割をサウジアラビアに任せてはどうかとの声もあるが、これも間違っている。サウジアラビアはこれまでもイエメンに介入してきたが、まるでうまくいっていない。
イエメン人はサウジアラビアに対して深い不信感を持っている。サウジアラビアが先ごろ、イエメン北部のシーア派武装勢力に攻撃を加えたことはアラブ世界のメディアで大きく取り上げられたが、世論の反応は芳しくなかった。
おまけにサウジアラビアにとって、AQAP打倒は言われなくても国益にかなう。03年以降、サウジアラビアは国内のAQAPの勢力への攻勢を強め、メンバーの多くはイエメンに逃れて組織を立て直した。さらなるサウジの介入は大きな災いの元になりかねない。
これまで通り冷静に対処すべし
また、軍事的な対処は問題解決につながらず、開発援助を増やすほうが大切だと指摘する声もある。開発援助は悪くないし、基本的に筆者はこの種の全政府的な支援と関与に賛成だ。
だがイエメンは世界で最も開発が遅れた地域のひとつであり、不毛の地が広がっている。政府の支配が浸透している地域は非常に限られている。
おまけにどうしようもないほど汚職がはびこっている。イエメン政府に開発援助を行なったところで、すでに資金が潤沢なプロジェクトにさらにつぎ込まれるか、無駄使いされるかどちらかだ。
ではアメリカはどうすべきなのか。過剰反応も反応しなさ過ぎるのもよくない。これまで通り忍耐強く、情報とテロ対策を積み上げ、一般市民の被害が最小限に抑えられ、最大の効果が得られる場合に限ってアルカイダの拠点を叩き、地元の協力者を探していくべきだ。
アメリカ政府が陥ってはならない落とし穴とは、「何らかの行動」を取ることで右派からの政治的な批判をかわそうとした挙げ句、やりすぎたり、状況をかえって悪くするような対応を取ってしまうことだ。
Reprinted with permission from Marc Lynch's blog, 07/01/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.