最新記事

ホンジュラス

国外追放大統領のカムバック大作戦

6月にクーデターで追放されたホンジュラスのセラヤ大統領は、ワシントン訪問という「定番」の戦略で復権を狙う

2009年9月7日(月)18時08分
ダニエル・ストーン

ご満悦? ホンジュラスへの援助停止を米政府から引き出すことに成功したセラヤ。クリントン国務長官との会談を終えた直後に(9月3日) Larry Downing-Reuters

 ワシントンのメイフラワーホテルのスイートルームで、ホセ・マヌエル・セラヤは、参謀たちと作戦会議を開いていた。セラヤは6月に中米ホンジュラスで起きたクーデターにより大統領の座から引きずり下ろされて、現在は国外追放の状態が続いている。

 しかし、セラヤはくよくよしていない。大統領に復帰すること、それが不可能でもとりあえず帰国を果たすことを目指して奮闘している。7月前半に現体制から帰国を拒否されると、中南米諸国を回って大統領や政府高官と会談し、同じ写真に収まった。それなりにPR効果はあったが、まだ十分でない。

 そこで、セラヤはワシントンにやって来た。これまで同じような境遇に置かれた世界の政治指導者たちが経験してきたように、アメリカで要人と親しげに会話し、祖国に法の支配を取り戻したいと強く訴えれば、時として大きな成果を得られる。

 9月3日にヒラリー・クリントン国務長官とセラヤが会談してすぐ、米国務省はセラヤの復職を改めて要求。ホンジュラスに対する3000億ドルの援助を停止すると発表した。クーデターなどで政権を追われた政治指導者がワシントンを訪問したがる理由がよく分かる。

コンサルタント料は月5万ドル?

 ただし、ただワシントンに乗り込めばいいというものではない。哀れっぽく見えないように、威厳を保つことも重要だ。それをうまくやってのけたのが、パキスタンのベナジル・ブット元首相だった(ブットは07年に帰国を果たしたが、すぐに暗殺された)。

 ハイチのジャン・ベルトラン・アリスティド大統領(当時)は91年にクーデターで追放されると、たびたびワシントンを訪問。米海兵隊による進攻に支援されて94年に大統領に復帰するという願ってもない成果を手にした。

「(ワシントン訪問の)狙いは、力のある人物と会っているのだという印象を祖国の人々に与えること」だと、戦略コンサルティング会社コービスのドン・ゴールドバーグは言う。この会社は、メキシコ、キプロス、赤道ギニアなどの政府の依頼を受けて、ワシントン対策を指南している。

 亡命生活を送る政治指導者にとって、要人との面会とメディアへの露出を確保する上で、PR会社やコンサルティング会社などの力は欠かせない。ただし、そのためには結構な金が掛かる。今回のセラヤのワシントン訪問に匹敵する充実した会談・取材スケジュールを組むとすれば、1カ月で5万ドルの料金を徴収すると、あるコンサルタントは言う(料金についての話題であることを理由に匿名を希望)。

セラヤがアメリカで手にした勝利

 国家元首にせよ、野党指導者や反体制指導者にせよ、追放された大統領にせよ、外国の指導者の影響力の大きさを測る手軽な判断基準は、ワシントンで誰が会ってくれるかだ。「ランクがはっきり分かれている」と、あるコンサルタントは言う(ビジネス戦略について話題にしていることを理由に匿名を希望)。

 このコンサルタントによれば、最高ランクは、ホワイトハウス訪問と議会の上下両院合同会議での演説。議会のスタッフやシンクタンクの所長との面会になると、だいぶランクが低くなる。有力議員やホワイトハウス関係者は、評判の悪い外国政治家と公然と会うことを避けたがり、なかなか時間を割いてくれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中