最新記事

イラク

マリキはイランの軍門に下らない

2009年7月21日(火)16時57分

 アッダワ党は結局、キャンプをSCIRIに明け渡すことになった。側近のタリブ・アル・ハッサンによると、リーダーの1人だったマリキは83年初めの撤収当日、キャンプ内のモスクでゲリラ兵にこう告げた。「今後、アッダワ党はこのキャンプと無関係になる」

 イランは新しいキャンプの主人となったSCIRIに全力で肩入れした。その結果、アッダワ党の勢力は衰え、イラン当局との軋轢はその後も続いた。ハッサンによると、マリキと自分の滞在許可証を更新する際、イランの役人からSCIRIの文書による承認が必要だと告げられたという。

イラク統治評議会を承認してくれた恩

 イラク軍がアフワズを空爆しようとしたときには、最悪に近い経験を味わった。住民たちが町から逃げ出しているさなか、ハッサンの家にマリキが助けを求めにやって来た。ついさっき、妻が帝王切開で息子を出産したが、病院はもぬけの殻に近い状態だという。

 ハッサンはマリキと2人でマリキの妻と赤ん坊を病院から運び出して車に乗せ、大急ぎで町を脱出した。その間、助けてくれるイラン人は1人もいなかった。

 それでもマリキを含むイラクのシーア派指導者は、イランが03年、アメリカの後押しで成立したイラク統治評議会を周辺諸国で最初に承認してくれたことを忘れていない。昨年、この地域の国家元首で最初にイラクを訪れたのも、イランのマフムード・アハマディネジャド大統領だった。

 最近のマリキは、イラク独自の路線を大胆に主張するようになってきた。「これまでアメリカと距離を置こうとしてきたが、今はイランとも距離を置こうとしている」と、元米国務省の中東専門家ウェイン・ホワイトは指摘する。

 アッダワ党の連邦議会議員ハイデル・アル・アバディは、イラク政府軍が昨年、南部のバスラで急進派のシーア派指導者ムクタダ・アル・サドル師傘下の民兵組織マハディ軍の掃討作戦を実施した際に、イランとの国境地帯に広がる「スパイ網」を摘発したとマリキが語るのを聞いたという。

 元アッダワ党のシャバンデルによると、マリキは停戦合意後に開かれた治安会議の席で、サドル派にこう警告した。「彼ら(イラン)は今、他人を攻撃するためのロケットを諸君に提供しているが、明日は諸君を攻撃するためのロケットを他人に与えるだろう」

マリキの周囲は親イラン派だらけ

 アッダワ党は今後もイランと手を組み続けるという見方もある。マリキの周囲の党幹部は親イラン派ばかりで、イランはアッダワ党を「遠隔操作」できる状態にあると、シャバンデルは言う。

 だがアッダワ党は、イランが油断ならない相手であることを身に染みて知っている。「イランは言うこととやることが違う場合がある」と、ロンドンでアッダワ党のスポークスマンとして活動するズハイル・アル・ナヘルは言う。「アメリカも全面的には信頼できないが、彼らは多くの場合、いったん口にしたことは守る」

 イラクに対するイランの影響力を完全に排除するのは不可能だ。イラク政府当局者によれば、両国の貿易額は年間40億ドル。イラクから見て、イランはトルコに次ぐ第2の貿易相手国だ。しかもイランは、いざとなれば親イラン派の武装民兵を動かしてイラク国内を大混乱に陥れることもできる。

 シャバンデルによれば、マリキはイラン革命防衛隊の司令官の1人、カッサム・スレイマニがひそかに自分の追い落としを画策しているのではないかと疑っている(マリキの側近はこの話を否定)。

10年初めの連邦議会選がカギに

 それでもアッダワ党は、20数年前にキャンプを明け渡した相手の鼻を明かすチャンスを手にしたのかもしれない。アッダワ党は今年1月の地方選挙で、SCIRIから改称したイラク・イスラム最高評議会(SIIC)を初めて上回った。連邦議会選挙を来年初めに控え、危機感を強めたイランはSIICとの統一会派の維持を求めてマリキに圧力をかけている。

 だがマリキは、自分たちが会派の主導権を握ることを強く主張するとみられる。要求が受け入れられなければ、スンニ派と組んで宗派混合の統一会派をつくるまでだと、アッダワ党の関係者は言う。

 もしそうなれば、イラクは国内の和解にぐっと近づく。同時にイランの勢力圏から大きく離れることにもなる。問題はイランがそれを認めるかどうか、認めないとすればどこまで抵抗するかだ。

[2009年6月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国憲法裁、尹大統領の罷免決定 直ちに失職

ビジネス

午前の日経平均は大幅続落、昨年8月以来の3万400

ビジネス

シャープ、堺工場の一部をKDDIに売却 100億円

ワールド

スイスへの米関税は理解不能、対策でEUと連携=財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 2
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 7
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 8
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中