「母親の自覚が足りないッ!」...海外通販サイトで見つけたマタニティドレスに思わず私もツッコミを入れた
自分が自分でなくなる妊婦
外部からの視線と、自分の心の実情が乖離していることへの戸惑い、赤ちゃんが来たという変な高揚と、これから先への不安とでジェットコースターのように揺らぐ気持ち。
まだ産まれるまで半年以上あるのに----そう、これは序の口で、まだ妊婦であることに慣れず、「母である」ことになんてなおさらなのに----自分が自分でなくなってしまったような錯覚。
そんなこんなすべて、常に脳の裏側にべったりと張り付いてちかちかと騒がしく、その濁流のような感情の矛先は結果として常に夫に向かうのだった。
この時期の私のかすかな慰めは、海外の通販サイトでマタニティドレスを眺めることであった。日本のメーカーが作る妊婦服は、どうもかザ・妊婦というか、「ほっこり」と「フェミニン」を押し出したデザインのものが多く、全然しっくりこなかった。
もっとこう、全身鋲だらけとか、全身シースルーとかないの、そう思いながら海外のサイトを見ると、へそのほうまで胸元が開いたワンピースとか、冷えという言葉は私の辞書にはないと言わんばかりの超ミニとか、いったいマタニティをなんだと思っているのかと聞きたくなるデザインの服がわんさと溢れており、大変に元気がよく、心が持ち上がった。
小野美由紀(おの・みゆき)
作家 1985年東京生まれ。ウェブメディア・紙媒体の両方で精力的に執筆を続けながら、SFプロトタイパーとしてWIREDの主催する「Sci-Fiプロトタイピング研究所」の事業にも参加している。オンラインサロン「書く私を育てるクリエイティブ・ライティングスクール」を主催。著書に『路地裏のウォンビン』(U-NEXT)、noteの全文公開が20万PVを獲得した恋愛SF小説『ピュア』(早川書房)、銭湯を舞台にした青春小説『メゾン刻の湯』(ポプラ社)、韓国でも出版された『人生に疲れたらスペイン巡礼』(光文社)、『傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』(幻冬舎文庫)、絵本『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)など。
『わっしょい!妊婦』
小野美由紀[著]
CCCメディアハウス[刊]
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