最新記事

音楽

より自分らしく──テイラー・スウィフトがロックダウンで脱皮

Social Distancing Served Her Well

2020年09月03日(木)18時45分
カール・ウィルソン

ミニマルなピアノやかすかな弦楽器の音色が彩る『フォークロア』は、メインストリームのポップスと一線を画す仕上がりに PHOTOGRAPH BY BETH GARRABRANT

<新作『フォークロア』をサプライズ発表したテイラー・スウィフトが見せる成熟への道のり>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によるロックダウン(都市封鎖)にもプラス面がある──そんな話を耳にすると、前向きに考えたいあまりに無理をしていないか、と思ってしまう。だがテイラー・スウィフトの場合は別だと、考えるべきなのかもしれない。

10代半ばでデビューして以来、スウィフトは数年先までスケジュールが組まれた人生を送ってきた。この夏は、昨年8月に発表した7作目のアルバム『ラヴァー』のツアーを行う予定だったが、パンデミックで全てがキャンセルに。そんな状況で、怠惰な生活と無縁の人物がすることは?

その答えは7月23日に明らかになった。本人がツイッターで、4月にレコーディングを開始したニューアルバム『フォークロア』を、深夜0時にリリースすると突然発表したのだ。

驚きはそれだけではない。

熱心なファンの一部(筆者もその一人だ)はずっと、近いうちにスウィフトの音楽が意外な変身を遂げると予想していた。原点のカントリー音楽に回帰するか、1970年代のシンガーソングライター、ジェームス・テイラーやジョニ・ミッチェルへの愛を反映したアコースティック作を発表するのではないか、と。新作のタイトルと、森の中に本人がたたずむグレートーンのカバー写真はそうした推測を裏付けるかのようだった。

実際には、本作はスウィフトならではの会話調のリズムと中音域の歌声を、ミニマルなピアノやシンセサイザー、かすかな弦楽器や管楽器の音色が彩る中間的な作品だ。最もよく似た前例を探せば、90年代半ばから後半にかけてのサラ・マクラクラン、あるいは同時期のイギリスのトリップ・ホップからビートを除いたものだろう。

一方、本作が共通点を持たないもの、または全く気に掛けていないものは、2020年のメインストリームのポップスを定義する要素だ。

さらに『フォークロア』は、ミュージシャン本人の人生の公的なストーリーから大きく離れることで、現代ポップスの主流の言説とも、スウィフト自身の最悪の傾向とも縁を切っている。自分の日記を素材にカントリー曲を制作していた10代の頃に始まったパターンだったが、有名になるにつれ、セレブ文化ののぞき趣味に迎合する彼女の作品は自滅し始めていた。

NW_TSF_002.jpg

PHOTOGRAPH BY BETH GARRABRANT

最悪の例が、17年のアルバム『レピュテーション』だ。カニエ・ウェストとキム・カーダシアンの夫妻と繰り広げたバトルの清算を試みた作品だが、対立劇を再現して得点を稼ぐことに貢献しているとは思えない出来だった。

そうした在り方から抜け出そうという意識がより強かった『ラヴァー』でも、意味深な歌詞を織り込む誘惑に勝てなかった。独立したアート作品というより、自らの人生についての暗号的なメッセージとして彼女の音楽を受け取るよう、ファンに促していた。

児童虐待を扱った曲も

自分のことだけでなく、ほかの誰かに成り代わって語る。本作で踏み出したそんな一歩を代表する収録曲が、実在の女性レべッカ・ハークネスの人生を扱った「ザ・ラスト・グレイト・アメリカン・ダイナスティ」だ。

セントルイスに生まれ、離婚を経験し、石油王の御曹司と再婚したハークネスのライフスタイルと放蕩ぶりは、第2次大戦後の礼儀正しい世間を騒がせた。「全てをぶち壊す素晴らしい時を過ごした」。彼女についてスウィフトはそう歌う。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 2

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 5

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 1

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 2

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 3

    キャサリン妃が「涙ぐむ姿」が話題に...今年初めて「…

  • 4

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…

  • 2

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が出産後初めて公の場へ...…

  • 4

    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…

  • 5

    キャサリン妃が「大胆な質問」に爆笑する姿が話題に.…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:超解説 トランプ2.0

特集:超解説 トランプ2.0

2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること