事故、病気、離婚......元ホームレス女性が社会の影を案内する「町ツアー」
ブリュールマンさんの場合は、先のベルヒトルトさん(ソーシャルワーク学の中の社会文化促進という分野を専攻した)と一緒に1年半がかかりで、町ツアーを作り上げた。
「定期的に会って、サンドラが生まれたときからいままでのことを書き出しました。でも、つら過ぎて言葉にできなかったことがよくありましたね。ホームレスになる前に暮らしていた荒れ果てたアパートの写真も、しばらくは見ることがきませんでした。思い出すことで疲れたり、お腹が痛くなってしまうことも何度もありました。でも、膨大な生い立ちの記録を見ていく中で、諸々の過酷な出来事は自分のせいではないと理解するようになりました。そして、これなら話せるという事柄でコースを作ったのです」(ベルヒトルトさん)
弱い立場の女性のことを、市民にもっと知ってほしい
ブリュールマンさんは、小さいときから最近まで修羅場を駆け抜けてきたと言っていい。ほかの女性ガイドも、壮絶な経験をしてきた(スープリーズのサイトのプロフィールと雑誌『Surprise』に詳しく記述されていた)。
ダニカ・グラフさん(44歳)は小学生のころにきょうだいが亡くなり、中学時代に性的被害に遭うなど、トラウマ的な体験を重ねた。その後の結婚が転機にはならず、夫が多額の借金を負い、グラフさんは懸命に働いた。夫は暴力(性的にも)や脅しを続け、グラフさんは生まれた子供を自分の稼ぎで必死に育てた。そして精神病を患って娘を連れて離婚。元夫は養育費を払わず、新しいパートナーとしばらく暮らしたが再び精神病になった。現在はパート勤務で子供と2人暮らししている。
【参考記事】日本とアメリカの貧困は、どこが同じでどこが違うのか
フランツィスカ・ルュティさん(54歳)は、10代で薬物を常用しながらも掃除や介護など様々な仕事をした。18歳のときの初めてのボーイフレンドに暴力を振るわれたり、性的被害に遭ったり、親友が自殺したりとショックなことがあったが、薬物を断って家庭を築いた。生まれた子供たちが生活の中心だったが離婚。再び薬物を使用し、アパートも仕事も失い、子供たちとは住めなくなった。いまは薬物も酒も断ち、成人した娘と暮らしている。
リリアン・センさん(62歳)は、母親の経済的な理由から里親と暮らし、7歳のときに母親の元へ戻った。そのとき、母には新しい夫がいたが貧困状態だった。家庭内で度重なる性的虐待を受けたが、母親がセンさんを脅迫して口止めし、誰にも相談できなかった。その後、結婚して、フルタイム勤務し、育児もして頑張り過ぎた結果、バーンアウトになり離婚。その後起業を試みるも、失敗して破産申告した。その後も仕事はしたが、定職には就けず新たに借金を抱えて、アパートを失いホームレスになった。2018年に初の女性ガイドとなり、指導してくれた男性ガイドと夫婦になった。
彼女たちは、「一般の人たちは、女性の貧困についてほとんど関心がない。それについて、もっと知ってほしい」「様々な援助があることを知ってもらえば、誰でも万一貧困状態になったときには助けを求められる。私は知らなかったから」と、ガイドの仕事をしている。