「日本のハイジ」を通しスイスという国が受容されている──スイス国立博物館のハイジ展の本気度
国立博物館での開催だから結構規模が大きいのではと予想していたが、違った。オーディオルームを除けば、それほど大きいとは言えない。「スイスの歴史」などいくつかの常設展も示した館内全体図を見ると、ハイジ展は1番小さい。しかし、「日本のハイジ」のクオリティーの高さや愛らしさは、何といっても魅力的だ。スペースの大小は関係ない。同館広報部に問い合わせたところ、「訪問者はとても多いです」とのこと。年末に発表されるという正確な訪問者数が気になる。
何度か足を運ぶと、平日は大人の訪問者に混じって中学校の生徒たちがクラス単位で来ていたり、週末は親子連れでにぎわっていた。友だち同士で来ていた女子グループは、セルをじっくりと見たり、日本版、ドイツ版、イタリア版、アラブ版の主題歌を聞いたり、特製イラストで工作したりと、とても楽しんでいる様子だった。
同館スタッフが解説する1時間の無料ガイド(大人向けと60歳以上のシニア向けの2種類)も定期的にあり、親子向けにはハイジの紙芝居を見る日も用意されていて、受け入れ態勢は万全だ。
大学教授らによる「ハイジ」シンポジウムも開催
今回の展覧会は、チューリヒ大学との共同で実現に至った。「日本のハイジ」を本場スイスできちんと紹介したいというのは、同大東洋博物史学科のハンス・ビャーネ・トムセンス教授の切なる願いで、開催のために力を注いだ。教授は、本展パンフレット(有料)の中で次のように述べている。
私にとって、このプロジェクトの開始は1980年代に遡ります。当時、(日本人に限らず)外国の人たちが日本製アニメのフィルターを通してスイスという国を経験し、受容していることに気づいたのです。2007年にチューリヒ大学で教職を得たとき、スイスで教えるということをこの「ハイジ現象」に何とかして結びつけようと決心しました。(パンフレットから、一部引用)
今回、スイスで初めて「日本のハイジ」が取り上げられたのはやはり特別感があり、スイスのメディアもよく取り上げている。もう1つ、あまり目立たなかったが筆者が特別だと思ったのは、日本から大学教員(研究者)たちを招いて、ハイジについて語り合ったことだ。スイス、ドイツ、韓国の大学教員らも加わったこの公開・国際シンポジウムは、8月末の2日間(朝から夕方まで)行われた。日本側からの発表の内容も、下記のように、なかなかすごかった。
・『ハイジ』のドイツ語はスイス的なのかー親密さを示す方言的要素
・人道主義の教科書――『ハイジ』から世界名作劇場へ
・「ハイジ」の変容――シュピリの原作から日本のアニメへ など
なお、シンポジウムには、小田部氏と中島氏と高畑氏の妻も出席し、約1時間に渡って、ロケハンの思い出話が繰り広げられた。文学作品としてのハイジ、そして、スイスらしさの象徴ともいえるハイジが、スイスにとって、本当に大切であることを再認識させられた。筆者は参加できなかったが、同館広報部によると「興味を持った方たちがたくさん来てくださって、盛況でした」とのことだ。