歴史を作るオバマ2期目のシナリオ
今年の夏、共和党との妥協が不可能となったとき、オバマは手回しよく、もしも妥協が成立しないまま年末を迎えたら自動的に国防費と社会福祉関連支出を削減し、ブッシュ減税を終わらせるという約束を取り付けている。そうなれば共和党にとっては悪夢、アメリカ経済も再び不況に陥る可能性がある。
共和党大統領候補のミット・ロムニーは今、この与野党合意を後悔しているそうだ。無理もない。この合意のおかげで、再選後のオバマは財政問題の重要な局面で最大の力を発揮できることになったからだ。もしも共和党が年末までに譲歩しなければ、青天井の防衛予算とブッシュ減税という共和党の大切な遺産が失われてしまうし、それがアメリカ経済に及ぼすダメージの責任も問われることになる。
もしも時間切れで自動的な歳出削減が始まってしまっても、まだオバマには次の一手がある。86年のレーガンのように超党派の合意に基づく税制改革の道を探ることだ。
税制改革は徹底的にやったほうがいい。誰にも理解しやすい税制にするのはもちろん、税制を自分たちに有利なものにしようとする貪欲なロビイストの影響も排除してほしい。
うまく税制改革を行えば、税率を上げずとも税収を増やすことが可能になる。そうすれば両党ともメンツを保てるし、国の経済も助かる。オバマもレーガンのように、そういう賢い路線を狙うべきだ。
次は移民法改正だ。民主党にとってもオバマにとっても、これは優先順位が高い。オバマが再選を果たすとすれば、それはヒスパニック系の支持を得た証拠と言える。ヒスパニックは、アメリカの有権者の中で最も人口増加のペースが速い。さすがの共和党もこの層の重さを理解するだろうから、本当の改革が実現する可能性が高まる。
共和党穏健派にも有利
実を言うと、オバマ政権が強制退去にした不法滞在者の数は前政権時代の2倍に達する。国境警備の体制も今や史上最高規模に強化されている。この事実を知れば、保守派もオバマ支持に回るのではないか。
合意に達する方法はある。オバマが再選され、新たな支持層を得ればそれは完成される。そうなればオバマは、一夜にしてヒスパニックの守護聖人だ。
外交政策は歴代大統領が2期目に力を入れることが多い分野だが、アメリカ全体を吹き飛ばせるほどの核保有大国が存在したレーガン時代に比べれば、現在の安全保障上の課題は小さい。最大の懸念はイランの核開発の野望だが、イランは実際にはまだ1つも核兵器を保有していないし、国の最高指導者が自ら、核兵器の使用は大きな罪だと発言してもいる。
オバマはイランに対して厳しい経済制裁を加えている。そのためイランの通貨は暴落し、インフレ率は上昇。地域で唯一のイランの同盟国シリアは内戦状態に陥っている。
オバマのイランに対する態度は、レーガンのソ連に対する態度に似ている。オバマはイスラエルに最新鋭の軍事防衛システムを提供したが、一方でイランが理性的に話し合う姿勢を見せたらいつでも応じる準備をしている。
イランにゴルバチョフのような人物が現れる可能性はなさそうだ。しかしレーガンが再選を目指した頃だって、ソ連の崩壊など誰も予測できなかった。オバマが8年の任期でできることを想像してみてほしい。
第2次大恐慌を未然に防ぎ、ウサマ・ビンラディンを殺害しアルカイダを弱体化させたことに加え、移民法を改革し、イラクとアフガニスタンの戦争を終わらせ、税制と歳出について超党派の合意を取り付け......ブッシュ(父)が東ヨーロッパの民主化で手腕を発揮したように、アラブ世界の民主革命の推進役にもなれるかもしれない。