最新記事

アメリカ

監獄業界も受難の時代

受刑者が増えているのに収容施設はがら空き。不況の余波にあえぐ民間刑務所の業績改善の秘策とは

2010年8月23日(月)12時46分
ナンシー・クック

 ミシガン州ボールドウィンは、人口1107人の田舎町。この町は間もなく、刑務所のベッド数が人口を上回ることになる。

 アメリカ屈指の民間刑務所会社GEOグループが最近、6000万ドルを投じて町の外れにある少年刑務所を拡張し、1755床を有する施設に造り替えたのだ。32%の世帯が貧困ライン以下で暮らすボールドウィンの住民は、民間刑務所の開設が雇用創出につながると期待していた。

 しかし連邦政府は、資金難のため3月に施設への補助金を取り下げた。残されたのは、空っぽの施設だけだ。

 似たようなことが現在、全米各地で起こっている。カリフォルニアやオクラホマ、コロラド各州の民間刑務所は、がら空きの状態が続いている。アリゾナ州が歳出削減を理由に受刑者の州外への送還を停止したことで、コロラド州とオクラホマ州の民間刑務所は今年の春から一時的に閉鎖する羽目になった。更生訓練施設と少年刑務所を運営する大手刑務所会社コーネル・カンパニーズは、カリフォルニア州に所有する2つの刑務所で年内は収容ゼロの状態が続くと予想している。

 理由は、受刑者が減ったからではない。むしろ、一部の刑務所に受刑者が集中的に収監されたり、軽犯罪者への量刑が緩和されていることが原因とみられる。この20年、民間刑務所は州刑務所と連邦刑務所の収監者、それに不法移民を組み合わせて収容することで成長してきたが、この戦略はもはや限界に来ているようだ。

外国市場進出に活路?

 事業戦略の見直しを迫られている民間刑務所は今、国外に進出したり、より幅広いサービスを提供したりして活路を見いだそうとしている。GEOは09年にオーストラリアとイギリスで刑務所を開設して2020万ドルの増益を達成し、南アフリカとニュージーランドにも触手を伸ばしている。コーネル・カンパニーズは、受刑者の社会復帰を視野に入れた薬物治療や就職支援プログラムへの需要増加に期待をかけている。

 この業界は、90年代後半から00年初めにかけても現在のような転機を経験した。現在、民間刑務所会社の株価は21〜29ドルだが、当時は約2・5ドルと低迷していた。大手刑務所会社のコレクションズ・コーポレーション・オブ・アメリカ(CCA)などは数多くの空きベッドを抱えていた。

 また、当時は業界全体が受刑者の扱いをめぐるスキャンダルに見舞われていた。テキサス州では元看守12人が女性受刑者と性的関係を持った罪で起訴された。ルイジアナ州の少年刑務所では、看守が収監者に暴力を振るった罪で訴追されたことを受け、刑務所運営会社は受託契約を失った。

 だが2つの大きな出来事が、業界を救った。連邦刑務所局の受刑者が増加したこと、さらには01年の9・11テロを受けて、ブッシュ政権がより多くの不法移民を拘束して全国各地の民間施設に収容するようになったことだ。

 アメリカの景気が回復するなか、民間刑務所産業の業績回復も期待されるようになった。CCAのデーモン・ヒニンジャー社長は、民間刑務所の収監者は00年には国内の全収監者の6%だったが、現在は約9%に増えたと言う。

狙い目は州の財政危機

 新たなビジネスチャンスがどこから舞い込むかはまだ不透明だが、ヒニンジャーは幾つかの選択肢を挙げる。例えば、刑務所が過密状態にあるカリフォルニア州の財政難は、民間刑務所にとっては朗報かもしれない。連邦刑務所局は最近、数千の追加ベッドを探しており、民間刑務所の幹部は、公営施設よりもコストを10〜20%抑えられると言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中