最新記事

銃乱射事件

真犯人は米軍の怯懦?

差別批判を恐れたお手盛り人事やたらい回しなど、事件の背景に臭う軍の怠慢

2009年11月11日(水)17時20分
トーマス・リックス(ワシントン・ポスト紙軍事担当記者)

警戒信号はあった 銃乱射で13人を殺したハサン容疑 Reuters

 フォートウッド陸軍基地での銃乱射事件から数日、私なりにじっくり考え報道も読んだ上で、議会の軍事委員会にぜひ解明してもらいたい疑問点は以下の通りだ。

■ニダル・マリク・ハサン容疑者の職務評価は明らかに低かった。なぜ除隊にもならずに昇進してきたのか。陸軍は出来の悪い底辺の5%を、クビにするよりラクだからという理由だけでしばしば留め置いてきたのではないか。

■ハサンが除隊にならなかったのは、イスラム教徒に対する差別と非難されるのを軍が恐れたからではないか。だとすれば、倫理的怯懦で有罪だ。困難でも正しいことをする代わり、容易で間違った道を選んだのだから。

■もし報道のとおり、ハサンが軍の精神科医としてきちんと治療を行うより暴言を吐くことのほうが多かったのなら、いちばんの被害者は患者である傷ついた兵士たちだ。ハサンの治療成績はどんなものだったのか。兵士は苦情を訴えなかったのか。調べればわかるはずだ。

■前任地のウォルターリード陸軍病院では、ハサンに対する苦情はなかったのか。フォートフッド陸軍基地に転属したとき、苦情は伝達されたのか。あるいはこれは、厄介な兵士を他の部隊に押し付ける古典的事例の一つで、それが今度は最悪の事態を招いてしまったのか。

■警戒信号はたくさん出ていたようだ。何か他の対処法はなかったのか。ジョージ・ケーシー陸軍参謀総長は先週末、(事件のせいで)イスラム系兵士に対する反感が強まるのが心配だと言った。私に言わせれば、そうした過剰反応を防ぐ最良の方法は、陸軍がイスラム過激思想に走る兵士を見つけ出して排除し、他の兵士を安心させることだ。

 どれも当然過ぎる話に聞こえたらご容赦願いたい。微妙な問題なので、慎重に物を言っているつもりだ。

<追記>
 憂慮したとおり、ハサンはウォルターリードで医学講義を行う機会に、同僚の軍医たちにコーランの話をし、「われわれは生より死を愛す」と言っていた。

 また彼は、過激な反米思想を説くイスラム教指導者アンワル・アル・アウラキとも電子メールで接触していた。

Reprinted with permission from "The Best Defense", 11/11/2009. ©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中