「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新技術でこんなに変わった「考古学」の現場風景
The Past Is Closer Now
CTスキャンで精査することで、レスター大学の考古学者で骨学の専門家ジョー・アップルビーは、遺体にあったけがの痕について、驚くほど詳細に解明した。彼女は死亡時にあった10カ所の傷を特定。リチャードが戦死したという説に沿うものだが、死後に加えられたとみられる傷もあった。これらは既に屈服した敵に対する侮辱の痕だ。よろいで覆われていたはずの部分に傷があったことから、それが分かる。
海底の画像はAIが調べる
そしてDNA解析だ。遺体のDNAを、リチャードの姉の非常に遠い子孫で、存命中の2人のものと比較したところ、血縁の識別に有効なミトコンドリアDNAが一致した。
ただし、これだけでは疑いの余地も残る。同じDNAマーカーは中世の数世紀の間に生きていた数百人に表れていただろう。
だが、そのうち半数は女性だったろうし、死亡年齢がリチャードと同じだった人は少なかったはずだ。そして遺体は戦闘の傷を負い、リチャードと同じ脊椎の湾曲があり、歴史家が予想した場所に埋葬されていた。
「皮肉な話だが、もし50年前に遺体が発見され、場所が史実どおりで、遺体に戦闘の傷と側湾症の痕があったら、DNAの証拠なしにリチャード3世だと結論付けただろう。科学の進展で、人々はより疑い深くなった」と、発掘を主導したレスター大学のマシュー・モリスは言う。
これは「CSI効果」と呼ばれるものを表している。最近の裁判では陪審員が、人気テレビドラマ『CSI:科学捜査班』に登場するような圧倒的な科学的証拠を期待するようになってきた。科学の進歩が懐疑主義のハードルを上げた格好だ。