衛星データとAIで開発途上国に農業改革を──「子どもが夢を語れない現実」にテクノロジーで立ち向かう若き起業家
サグリ株式会社のCEO坪井俊輔氏
<人工衛星のデータをAIで解析し、農業の課題解決に挑む、サグリ株式会社創業者の坪井俊輔氏。世界展開を目指す若き起業家が語る、テクノロジーの可能性とは>
貧困のループを目の辺りにし開発途上国の農業改革を決意
坪井氏が率いるサグリ株式会社が提供するサービスは3つ。自動生成した農地の区画情報を活用し、土壌の状態や作物の育成状況の把握など土壌解析を効率化する「Sagri(サグリ)」、耕作放棄地を可視化する「アクタバ」、田畑の農作物の情報を把握する「デタバ」だ。これら衛星データとAIを活用したアプリケーションは、多くの人員と時間がかかる作業を瞬時にしてデータ化。アクタバに至っては、調査工数の9割を削減し、すでに複数の自治体で正式導入されている革新的な技術だ。
IT分野で活躍する坪井氏だが、初めて起業したのは、小学生から高校生が宇宙の魅力を学ぶ宇宙教室を企画する教育事業だったという。「小さい頃から『宇宙飛行士になりたい』と、いつも夢を語っていました。同じように、子どもたちにも大きな夢を見ていてほしいのです」。坪井氏が立ち上げた株式会社うちゅうは、ロケットや人工衛星、月面開発などを題材に、宇宙に関するさまざまな学びの場を提供した。
2016年、事業で訪れたアフリカのルワンダでの体験が大きな転機となる。「ルワンダの農業従事者は生きるための最低限の収入しか無く、貧困のループが代々続いている。子どもが夢を語れないその状況に、開発途上国における農業改革の必要性を強く感じました」
この頃、偶然にもEUの地球観測プログラム「コペルニクス」が、大気や陸域、気候変動など衛星の観測データを民間への無償提供を開始する。工学部出身で、うちゅうの事業で衛星についての知見がある坪井氏にとっては、千載一遇のチャンスであった。
衛星データを用いた農家への小額貸付事業
農地管理アプリ「Sagri」の開発でインドの農業現場を視察した際に発案したのが、農家への小額貸付事業だった。信用が無く肥料や農薬代の融資を受けられない農家は「Sagri」が算出した収穫見込みデータを材料に、金融機関から融資を受けるというビジネスモデルだ。アプリのローンチ後に2,000件もの申請があったものの、初の試みのため金融機関からの貸付は不発に。コロナ禍で事業は中断していたが、現在は再び銀行からの融資を取り付けようとしている。また、インドやケニアで農業支援を行う企業と提携するなど、海外での導入も進んでいる。