あるAIの歌 10年前に他界した妻の歌声と写真を再現する理由──第一回AIアートグランプリ受賞
「第一回AIアートグランプリ」受賞作となった「Desperado - - Diff-SVC generated 妻音源とりちゃん[AI]」 Koya Matsuo
<AIを使ったアート作品を競うコンテスト「第一回AIアートグランプリ」で、グランプリ受賞作が生まれた経緯とは......>
2022年の夏、かつてのパソコンブーム、インターネットの大衆化、スマートフォンの普及に匹敵すると思われる動きがありました。ジェネレーティブ(生成系)AIの登場です。
最初はイラスト・写真をAIで生成することが注目され、現在ではChatGPTをはじめとするテキスト生成によるAIとのインタラクティブなやり取りがマイクロソフトやグーグルなどのビッグテックを中心に、新しい産業革命とも言うべき大きなうねりを引き起こしています。
クリエイティブな世界においても生成系AIという新しい道具の登場で、アーティストたちの心は大きく揺さぶられました。それに呼応するように誕生したのが、AIを使ったアート作品を競うコンテスト、「第一回AIアートグランプリ」です。
10年ほど前、写真、動画と3曲分の妻の歌声が残された
3月12日、その最終審査会が行われ、自分の投稿作品「Desperado by 妻音源とりちゃん[AI]」がグランプリを受賞しました。素人が歌うクラシックロックのカバー曲。それが受賞するに至った背景をお話したいと思います。
「とりちゃん」というのは旧姓が白鳥だったことに由来する妻のニックネームです。妻音源とついているのは、妻本人が歌ったものではなく、合成音声であるからで、[AI]とあるのは、その合成音声をAIによって生成しているためです。
なぜ本人歌唱ではないかというと、妻は10年近く前、2013年6月25日にこの世から旅立ったからです。乳がんのステージ4でした。妻の最期の言葉は「だいすき。ありがとう。さよなら」。
彼女が18歳のときから50歳までずっと一緒に生きて、共通の趣味だった音楽を歌い、演奏してきました。2013年には二人のデュエットで音楽コンテストにも応募しました。妻が旅立ったあと、自分のもとには写真、動画、そして3曲分の彼女の歌声が残されました。
歌声合成技術を追いかけて記事にしていた自分に、残された音声の素片を組み合わせることで、新たな歌を録音できるという考えが浮かびました。老後は一緒に音楽を作って過ごそう。そんな考えだった二人の夢が叶えられるかもしれません。