最新記事

感染症対策

新型コロナウイルス感染追跡アプリ、期待のブルートゥース型に見えた課題

2020年4月29日(水)19時12分

近距離無線通信技術のブルートゥースを使って新型コロナウイルス感染者との接触を追跡するアプリの活用が世界中で検討されているが、いち早く導入したシンガポールなどの事例からは、課題が浮かび上がっている。写真はシンガポールの追跡アプリ「Trace Together」。3月25日撮影(2020年 ロイター/Edgar Su)

近距離無線通信技術のブルートゥースを使って新型コロナウイルス感染者との接触を追跡するアプリの活用が世界中で検討されているが、いち早く導入したシンガポールなどの事例からは、課題が浮かび上がっている。

シンガポールが先月、アプリ「トレース・トゥギャザー」を導入した当時、同国の感染者数は人口570万人に対して385人にすぎなかった。その後に感染者は9000人を超えたが、アプリをダウンロードしたのはユーザーの約5分の1どまりだ。

ハイテクに強く、政府への信頼感も強いシンガポールでさえ利用者数が限定的にとどまっているという事実は、世界中の保健当局者や技術者が今後直面する課題を示している。

韓国やイスラエルなど一握りの国は、携帯電話の位置情報を通じた接触追跡方法を採用している。しかし多くの国では、こうした中央集中型の監視に基づくアプローチはプライバシーの観点から受け入れ難いと考えられている。

これに対し、ブルートゥース型は欧州、中南米、オーストラリア、多くのアジア諸国が導入を進めているが、実効性を持たせるには大半の人々が利用する必要がある。

シンガポールに次いで世界で2番目にブルートゥース型を導入したと考えられているインドでは、市場で支配的なアンドロイド端末でのダウンロード件数が5000万に達した。しかしこれは、スマホユーザー5億人強の一部にすぎず、ましてや人口全体の13億人と比較すれば一握りにすぎない。

シンガポールのリー・シェンロン首相は21日の演説で、トレース・トゥギャザーのようなアプリの「インストールと利用に皆さんの協力が必要になる」と呼び掛けたが、利用の義務化には踏み込まなかった。

シンガポールやインドでの活用はまだ初期段階だ。米国のアップルとグーグルが先週発表したアプリ開発協力により、技術的な問題の解消などを通じて普及に弾みがつくかもしれない。

また、現在のように各国で外出制限措置が実施されている間はアプリも十分に活用できないが、解除されて人同士の接触機会が増えれば魅力が増すかもしれない。イタリアの自動車メーカー、フェラーリは、安全に工場を再開するための計画の一環として、接触追跡アプリを従業員に支給する予定だ。

オーストラリア政府は、こうしたアプリの利用を義務化する可能性を示した。ただ欧州諸国やプライバシー保護を求める団体は義務化に猛反対。アップルとグーグルは、強制は支持しないとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

富士通、今期営業益35%増見込み 売上は2%減少へ

ビジネス

富士通、発行済株式の6.75%・1700億円上限に

ビジネス

キヤノン、通期業績を下方修正 為替と米関税政策の影

ビジネス

ニデック、26年3月期は8.2%の営業増益見込む 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中